父の命日で菩提寺へ。ここ数日の朝晩の冷え込みで自律神経の調子を崩しており車中は難渋したものの、到着したあとはスッと気分が良くなったのが不思議。それで、亡くなった当日の父の心持ちをあらためて想像しながら、ご住職の読経で手を合わせた。

 

「闇の中の男」

闇の中の男

闇の中の男

 

 大病が見つかった娘、心労に苦しむ孫娘とともに暮らす老いた男が、眠れない床でじっと闇に眼を凝らす。彼の脳裏には、創造主である自分自身を次元を超えて殺す宿命を負ったひとりの若い男の姿が動きはじめていた…という入れ子構造の小説だが、終盤に入る前にそれはあっさりと方がつく。やや拍子抜けだったが、そこから物語は主人公の一族に起こった不幸な出来事の細部へとクローズアップしていき、そしてほとんど直接的なまでに衝撃の視覚イメージへとあらゆる支流が結像していく。

9.11後のアメリカ人の渾沌きわまる苦悩とその克服への意思をここまで追体験させられた記憶はない。オースターの筆力は圧倒的だ。