絶望

絶望 (光文社古典新訳文庫)

絶望 (光文社古典新訳文庫)

ナボコフがロシア語を用いて書いた初期の長編。自分と瓜二つの男を身代わりとしての保険金詐欺を目論むベルリン在住の実業家を主人公としたミステリー小説…の体裁を取った小説家小説。自分には文学の素養があるとくだくだしく手記に綴る主人公が一度ならず評論家をののしっているのが、作品発表の折の諸々を想像させられて可笑しかった。ナボコフ作品には、プチブル階級の男性以外は距離を置いて描写するというイメージを持っていたが、この小説では無職の男も専業主婦もビジネスマンとして羽振りをきかしている主人公と等価値に見られている視線があるようで、これまで読んできた中ではかなり好みの上部に入るし、読み物としてのリーダビリティもふつうに高く感じた。