さよなら渓谷('13/監督:大森立嗣)

吉田修一の同名小説が原作。強姦被害者がその後の風評から有形無形の苦痛を受ける「セカンドレイプ」が題材の作品だが、社会批判という単純なメッセージには全く特化されていない。劇中で若い女性記者がなにげなく洩らす言葉「なんで仲間の絆を美化したものか外部で起こした不祥事か報道が極端なんですかね」という射程は、学校の体育会系に当てた疑問に過ぎなかったが、ラストシーンで同じ構図を取った質問が別の人物から発される事になるその時、ここまで個人の事情を知りながらそんな二択をあたかも自然な発想として持ち出してくるその人物ひいては背後にひかえる世間のどうしようもなさ、そこで魂をうちのめされ続けてきたヒロインの苦痛を、観客は十全に理解する。静かな渓谷のある町で過ごした同棲の日々でさえ、彼女にとっては別れの前章でしかなかった。
主演ふたりの演技がとにかく素晴らしく、心のバランスを崩した後でさえセックスアピールにあふれるヒロイン役の真木よう子と、その同棲相手役で、日本人男性の一般化と理想化のちょうど中間を保つルックスと雰囲気を持つ大西信満とのツーショットは常に目が離せない緊迫感があった。