「UN-GO」全11話視聴完了

『結城新十郎』は本来持っていた実名ではないと劇場版の「因果論」で語られ、のみならず自分自身が本当は何を求めて何のために生きているかさえ掴みかねているという、およそアニメの主人公に似つかわしくないキャラクターであることが本編の早い段階から分かる構成になっていたのは、単独ライターによる脚本のたまもの。そして(実存的人間の特徴として現代に意識されている)その軸の不確かさは、他のキャラクターの描写においても通底していた。第10話において海勝麟六は愛娘の公式の場での証言に意外な顔をするが、その理由は発言が示す事象においてのみならず或いは梨江が新十郎にそこまで誠実であろうとした現実に、自分で勧めておきながらも裏切られた気持ちになったからかもしれない。その含みは演出上で明確に為されていたと私は感じるが、しかしそれは受け取る側の視聴者が自分の内側にある“ブレ”とどう向き合っているかにもよるものだ。「きっと伝わるはず」という信頼を原点とした志の高い作品だったと思うし、最新の時事問題を積極的に取り入れながらも相対視点を保つことでギリギリのところでプロパガンダから逃れるというタイトロープな脚本を、エンタティンメントの見事なバランスでよくぞここまでプロデュースしディレクションに掛けたものだと思う。これもまた2011年の奇跡の一作と言える。非日常感をセンスとして高めたキャラクターデザインでもって、人間の現実的な動作や表情を醸していた作画上の狙いも優れて異化効果に満ちたアイデアだった。