月を見つけたチャウラ

月を見つけたチャウラ―ピランデッロ短篇集 (光文社古典新訳文庫)

月を見つけたチャウラ―ピランデッロ短篇集 (光文社古典新訳文庫)

20世紀前半のイタリアで主に戯作の世界で活躍したノーベル文学賞受賞者の数多い短編小説から選ばれた15編。冒頭二作が弱者の苦境が前面に出ているようで、先を読みすすめることを少し迷ったが、後半にすすむほどユーモアや幻想性が色濃くなっていく。『ひと吹き』、『甕』、『ある一日』が好みだが、特によかったのは『手押し車』。個人が内に秘めた苦悩がちょっとした角度の違いで爆笑を誘う人生の機微が、これみよがしさを最大限に排除して描かれている。なお、光文社古典新訳文庫ではめずらしいことではないが、巻末解説での作者プロフィールの詳細さと分かりやすさが素晴らしい。むしろ本文の方がこちらの参照部に思えてくる。