双眼鏡からの眺め

双眼鏡からの眺め

双眼鏡からの眺め

意図のある編集かは分からないが、社会へのパースペクティブな視点を持ち始めた幼い少女の短編から始まり、世界から自己の内面へと収束していく人生末期の老女の短編で締めくくられている。人生折々の思い出に畳まれた感情のひだを辿るとき、この大部の短編集のいくつかを思い出すことになる予感がする。ずいぶんと読み終えるのに時間がかかったが、その甲斐はあったとしみじみ感じられた。出版社にそんな感謝の気持ちを伝えたくなる。アメリカで暮らすユダヤ人の様子を、生き生きとした形で思い浮かべることが出来るという切り口においても、非常に興味深い作品群。自分が特に気に入ったのは、シナゴーグに集う人々を十代の少女が観察した「巡り合わせ」、ラストセンテンスが最高の切れ味な「トイフォーク」、はみだした人々の中でさらに変わり者としてみられる存在への多層的な視点「規則」、登場人物の多彩な性格とミステリ要素とでリーダビリティは最強の「ジュニアスの橋で」、孤独を選んだ者の強さと悲しさとが淡々と綴られる「電話おばさん」。