〈恥ずかしさ〉のゆくえ

〈恥ずかしさ〉のゆくえ

〈恥ずかしさ〉のゆくえ

哲学論である本書の最大のテーゼは「『廉恥』と『羞恥』は区別され得るものか、そして前者は後者に倫理上で優位に立ち得る価値基準か」だと自分は理解した。「羞恥心」について世間の巷間で他者から意識させられることは多いと実感する。それは一言でいえば「みっともなさ」それもごく表面的な類のものであり内心の恥はそこでは吟味されない。では「廉恥心」はどうかというと、個人的な感触では、近年いよいよ発露される状況は減っていっているように思える。端的にいえば、廉恥心の表明はコミュニティの中においての共感を呼ばなくなっていっていると感じるのだ。
 筆者によると「廉恥心」は自分の発する言葉があらかじめ欺瞞に満ちているという人間の「原罪」めいた感情が基盤になっているという。それを直視しつつも維持するというしんどさを、いまいちど見つめなおす事が現在の社会を覆う様々な不信を解消していくのではないかという提案が本書を読み進める内にあぶり出されていく。一つのモチーフをじっくり何度も煮詰めていくような、久しぶりに密度の高い思想読書となった。