池澤夏樹には「バビロンに行きて歌え」とか「
すばらしい新世界」とか印象に残ってる小説作品もあるけど、どちらかといえばエッセイの仕事の方が好きかも。それは、本書中で語られている実父・
福永武彦の存在の影の大きさにあるいは関係しているのかもしれないけど、それはもちろん読み手であるこちらの勝手な想像。ただ理念やロマンを現実そのもののより強く愛しているタイプに思えるので、もしかしたら詩作の方にもっとも才能があるのではと予想したりもする。その根拠として、
須賀敦子の「コルシア書店の仲間たち」に寄せた書評内の、そもそもが読み上げるものとして生まれた詩を大勢の前で朗読することの醍醐味を紹介する箇所のこの上ない的確さを。