愛の世界

愛の世界―ボウエン・コレクション

愛の世界―ボウエン・コレクション

国書刊行会発のボウエン・コレクション第一期これにて完結。三冊の内もっとも著作時期が若い本書はその分手法に手探り感があり、また戦時の即席恋愛というやや限定的なモチーフ(このあたりの理解は訳者の巻末解題が非常に助かる)を扱っている事もあって少々読み進めるのが難しかった。舞台の変化があまりないのもきつい。ただ、恋愛模様のストレートさは第一期コレクションのほかの二冊にはなかったもので、また物静かな父が幼い娘を感情に任せて体罰を加えるという描写に端的な感情的な激しさ-ただし文体自体は極めて静的でおだやか-もちらりとあったりして、恋人も友人も多かったらしきボウエン本人の性格がうかがえる興味深さはあった。あと、書題に込められた意味は中盤を越えてもしくはラストセンテンスに至るまで見当がつかず、そういう意味では上質なミステリとして読めるかもしれない。自分自身の解釈としては、愛とはフィールド<領域>の次元で始まり、そこから動かないまま自然消滅することも多々あるが、対象その人との絆にまで高める事も可能という示し方がなされた結部だったかなと。今は亡き母の婚約者の影を幻視する少女を主人公としながらも、まったく甘々とした耽溺にいたらないさりげないドライさが、なんともボウエン節な作品でした。貴族所有のカントリーハウスの等身大な描写(作者本人も住んでいただけに)も見所。