野性の蜜

野性の蜜: キローガ短編集成

野性の蜜: キローガ短編集成

ボルヘスが活躍する以前の南米において短編の名手とされていたウルグアイ生まれの作家の、日本における紹介書。30篇にも及ぶ短編集としてはなかなか重厚な一冊だが、構成が淡々としているためにやや読み通すのがつらかった。小説本編よりむしろ小気味よい附録『完璧な短編小説家の十戒』(これはブログにさえも応用できそうな完成度の文章論なので、書き写してパソコンモニター横に貼っておきたいとさえ思う)や、作者のプロフィールを余すことなく伝えた解説の配置を工夫するなどの編集上の企みがもっと欲しかった。作品の総合的な印象としては、死を運命論で扱う重苦しい雰囲気と、密林地帯のまとわりつくような粘り気のある空気とが渾然しており、色鮮やかさがかえって目をくらますような幻想性を持っている。しかし個人的に好みだったのは、ブエノスアイレスを舞台とした都会的な『愛のダイエット』、『シルビナとモント』の方。これらにはユーモアが多少はしのびこむ余地が許されている。辺境を舞台にしたものの中では、異例として死を変則的に克服する形で終幕する『フアン・ダリエン』にカタルシスを覚える。