乱視読者のSF講義

乱視読者のSF講義

乱視読者のSF講義

おおまかに分けると三部構成となっているエッセイ集。第一部にあたるのは、著者が実際に複数の大学で行った集中講義の内容を紙上にまとめたもの。第二部は「SFマガジン」での連載からの採録。第三部となっているのは、著者が特に愛するSF作家の一人であるジーン・ウルフにまつわる考察や対談など。第一部はH・G・ウェルズを基点として各傑作短編で辿るSF小説の歴史。その系統の“進化”についてifの存在にまで想いを馳せる柔軟な思考と、語義を厳密に取り扱う堅実な語り口との併せ技が非常に魅惑的。自分にとって未読の題材も多かったが楽しく読めた。第二部はどちらかといえば愛好家同士の内輪に向けた趣向で、第一部とのギャップや個人性の高い記述が特に顔を出すのも一興。第三部はその双方のテイストが混じりあっており、その重奏ぶりがウルフの作風そのものへのオマージュとなっているように読めるのが心にくい。リーダビリティの高さと内容の濃密さの両輪という意味でSF好きにはすべからくオススメしたい一冊。