コクリコ坂から('11/監督:宮崎吾郎)

気候穏やかそうな港町の歴史ある高校で『カルチェ・ラタン』と呼ばれる古く雑然としたクラブハウスが取り壊されるという騒動が勃発。それをきっかけとして出会う男女学生の恋愛ドラマを軸に、積み重ねられた時間の掛け替えのなさを描く叙情映画。事前に断片的にみられたキャラクターの動画が、かつてのジブリよりもすらっとして見える事も多く意外に“キャラ萌え”する。自分は生徒会長と広小路さんのメガネキャラ二人が好み。絵描きの才能を持つ後者は、これまでのジブリ作品ではあまり出てこなかった生活態度が少々だらしなく見える若い女性ということもあり目を特に引いた(まな板に向かうシーンの“のっぽ”ならではの所作がとても良い)。ストーリーテリングとしては、主人公たちのとある出生の秘密が心理描写を邪魔しない程度に機能している。ただ、あやふやなままに秘密をおいておくという思い切った幕の閉じ方もあるいは良かったのではとも思わされたのは、ラストシーンがすこし弱い気がした(冒頭で祖母がヒロインに掛けた気遣いの言葉への応答としてという意味)ため。センセーショナリズムはまったくない作品だが、これまでのジブリとはまたひと味違う静かさや穏やかさが漂う点はそれなりに評価したい。宮崎吾郎監督の次回作が楽しみ。