第70回2023秋調査

アニメ調査室(仮)さんにて開催中。以下、回答記事です。

2023秋調査(2023/7-9月期、終了アニメ、61+3作品) 第70回

01,てんぷる,x
02,英雄教室,x
03,百姓貴族,x
04,ぼさにまる,x
05,AIの遺電子,x

06,いきものさん,B
07,おかしな転生,x
08,贄姫と獣の王,x
09,AYAKA あやか,x
10,ホリミヤ piece,x

11,闇芝居 十一期,x
12,白聖女と黒牧師,x
13,ライアー・ライアー,x
14,青のオーケストラ,x
15,SYNDUALITY Noir,x

16,EDENS ZERO (2期),x
17,スマーフ シーズン2,x
18,キャッチ! ティニピン,x
19,サスとテナ シーズン4,x
20,スパイ教室 2nd season,x

21,彼女、お借りします 第3期,x
22,BLEACH 千年血戦篇 訣別譚,x
23,フェ~レンザイ 神さまの日常,F
24,BanG Dream! It's MyGO!!!!!,x
25,あやかしトライアングル,x

26,政宗くんのリベンジR,x
27,わたしの幸せな結婚,x
28,実は俺、最強でした?,x
29,もののがたり 第二章,x
30,七つの魔剣が支配する,x

31,デキる猫は今日も憂鬱,x
32,夢見る男子は現実主義者,x
33,Lv1魔王とワンルーム勇者,x
34,好きな子がめがねを忘れた,x
35,うちの会社の小さい先輩の話,x

36,死神坊ちゃんと黒メイド 第2期,x
37,はたらく魔王さま!! 2nd Season,x
38,文豪ストレイドッグス 第5シーズン,x
39,まめきちまめこニートの日常 第2弾,x
40,無職転生II 異世界行ったら本気だす,x

41,レベル1だけどユニークスキルで最強です,x
42,MIX 2nd SEASON 二度目の夏、空の向こうへ,x
43,ライザのアトリエ 常闇の女王と秘密の隠れ家,x
44,自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う,x
45,聖者無双 サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道,x

46,魔王学院の不適合者 II 史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う,x
47,悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。,x
48,シルバニアファミリー フレアのゴー・フォー・ドリーム!,x
49,カードファイト!! ヴァンガード will+Dress Season3,x
50,シュガーアップル・フェアリーテイル 第2クール,x

51,幻日のヨハネ SUNSHINE in the MIRROR,x
52,アンデッドガール・マーダーファルス,A
53,(7月完結) NieR:Automata Ver1.1a,C
54,(地上波初放送) TIGER & BUNNY 2,B
55,(特番 4話) トニカクカワイイ 女子高編,x

56,(特番 8話) 夫婦交歓 戻れない夜,x
57,(特番 2話) 五等分の花嫁∽,x
58,(ネット配信) ユーチューニャー,x
59,(ネット配信) ROLY POLY PEOPLES,x
60,(ネット配信) Fate/Grand Order 藤丸立香はわからない,x

61,(ネット配信) 幼女社長R,x

参考調査

t1,(参考調査) スプリガン,S
t2,(参考調査) 万聖街 1時間スペシャル,x
t3,(9話までの暫定評価) ゾン100 ゾンビになるまでにしたい100のこと,x

≪寸評≫
「いきものさん」B:線や塗られた平面が動くこと、いや動かそうとする意思そのものがすでにエロティックなのだと知らしめるミニアニメ。好きな回はとんび。
「アンデッドガール・マーダーファルス」A:この設定なら2クールないと味わいつくせないよ~という濃い作品だった。キャストの演技合戦がまた豪華だったなあ。これまでの畠山守監督作品ではたぶん一番好き。
「NieR:Automata Ver1.1a,」C:変則的すぎる放送スケジュール、説明が足りないまま進むストーリー、希薄な世界観。それでもなぜか視てしまっていたのは、中井準総作画監督の画風が好きだから。なお原作ゲームは名前以外知らない。
TIGER & BUNNY 2」B:(NETFLIX視聴)後半のユーリの扱いがやや雑に感じられたこととゆったりとしたエピローグが欲しかった以外は不満はない。ヒーロー幻想にとりつかれたかつての英雄と戦うという批評性も興味深かった。ただ作画は前シリーズよりややゆるめ。
スプリガン」S:(NETFLIX視聴)すでに準古典となった名作漫画を最新の画面処理を用いてアニメ化。まさにエンタメというSFアクションぶりが近年のテレビアニメにない雰囲気で最高。

2023年7月に観た映画

君たちはどう生きるか ('23 監督:宮﨑 駿)
 後半の展開にとりとめがなさすぎるのは「ハウルの動く城」以後の宮﨑監督の悪癖だと思っているので、今回も自分は積極的に評価できないし、そもそも作品からのメッセージが観たあとに何も残らなかった。とはいえイメージの奔流としては満足できたので、プラネタリウムでのプログラム映画のような感覚という意味では料金の元は取れた。
 あと、主人公の少年の性のめざめとその危機からの辛くもの脱出劇という側面はけっこうおもしろい。主人公は精神的に父から若い継母を寝取るところだったんだけど、継母の内面での葛藤への共感(内奥の部屋で呻く継母の艶めかしさは本田雄抜擢の最大の成果)、父が自分自身をつねに奮い立たせねばいけないほど内面に不安を抱え込んだ存在であることの認知(インコ王のどたばた劇で父権制を戯画化)、亡母を個人として客観視することでマザーコンプレックスからあやうく脱却、そして我が身にひそむ大賢人(大叔父のパーソナリティを拝借)を見出して、現実世界に帰還する。妖精というか妖怪じみたお婆たちが水先案内人になっているイメージも良かった。が、やっぱりなかまをつくってげんじつにいきます!と優等生めいた少年がまっすぐな目で宣言するというつまんない決めシーン、そして戦争商売人である父への主体性への兆しをなんら劇中で表現してなかったんでやっぱ全体としてダメ。自分はまったく共感できない作品。

2023年6月に読んだ本

マナートの娘たち

アメリカ人として生まれ育ったアラブ系二世の眼から見た日常の姿を活写する鮮烈な短編集。映画産業のインターンとして夢と希望を持った女性が現実を徐々に知る『懸命に努力するものだけが成功する』の生々しさと苦々しさ。アラブ系住民が多く住む街で起こった誘拐事件を端緒に、誰もが意識の下に隠れ持つほの暗く不可解な衝動を描きだす『失踪』、2011年のあの日あの時の空気を人種が混淆しつつ流動的な人間関係のコールセンターというひとつの職場を用いて焼き付ける『サメの夏』が特に印象が強い。


文明交錯

スペインの侵略に蹂躙されたインカ帝国。その要因として挙げられる、銃・鉄・馬・病原菌。それらへの対策がすでにヨーロッパ勢の上陸前からある程度仕上がっていたら…というifから展開される歴史改変小説。一人称による筆記スタイルが主な構成なので、主観から見た世界として違和感がほとんど解消されており、たとえばカール五世が太陽神の生贄台に架けられてしまうという強烈なシーンもそれなりに自然な展開として受け止められるし、皇帝アタワルパが無惨な最期をとげない流れにも“十分あり得たかもしれないアナザー”として納得ができやすい。そして、史実よりも権力バランスが緩やかな世界で、“新世界”への自由な航海に出ようとするセルバンテスが視点主人公の最終章。文学はなによりも自由な魂の冒険。そこから生まれるものは即効性は薄いかもしれないが、きっと現実にさざ波を立ててくるという自己言及性の感じられる締めくくりだった。

最近読んだ漫画:2023夏

追燈

体験者の死後も続く無念を、語り部が受け継ぐ意味を静かに、表現の技巧を凝らして肉付けされた短編作品。漫画の題材として関東大震災での朝鮮人虐殺がもちいられたのは初めてではという作者の指摘にはハッとさせられた。


ドロヘドロ

一日話数限定の無料公開中の出版社アプリで機会を得た。アニメで知った作品だが、こちらの原作も幸福や満足感とは相対的なもので、どんなに荒んだ世界に生まれてもその生が無意味とは限らない。それがヒトの幅の広さであり世界という場所の豊かさであるとユーモラスかつ切実に伝えてくる独自の視点が、すばらしく心を自由にしてくれる。2000年開始の作品というわりには、男女で戦闘力がアンバランスでないコンビ、女性をむやみに客体化することのない性表現など現在でいうポリティカルコレクトネスに合致する世界観がつくられているが、インタビュー記事を読んでみても作者は意図して行った方向ではないようだ。


スーパードクターK

K2がSNSで話題となった余波なのか、その本伝というか前作である本作も電子版が100話無料公開された。週刊少年マガジンで読んでいた時は正直いって時代錯誤感が否めなかったのだけど、こちらが年取ったせいなのか素直に面白い。なかでも印象が強烈で覚えていたのはヘリ事故で死亡パイロットから同乗者へ皮膚移植する回や、同じく事故で焼死したF1パイロットの角膜がチームメンバーに移植されるエピソード。K2よりもインパクト重視だったり、医療行為と直接関係のないバイオレンス描写が多めなのは時代の違いとともに、あるいは担当編集者の意向がより強かったのかもなと思う。そんな中でも女性キャラの主体性が疎かになっている箇所はほとんどなく、この点は真船先生の意識の高さが最初からあったのでは。


君と宇宙を歩くために
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君と宇宙を歩くために - 泥ノ田犬彦 / 第1話 ワン・ジャイアント・リープ | &Sofa
発達障害を持つ当事者の心情が、ともに現実を生きる存在として主体的に描かれるようになったのは近年の数少ない良い社会的現象だなと思う。«どんなにつらくても泣くのは家の中で、外はだめ»という内容のメモに胸が締め付けられる。


ひとりでしにたい

現状、全話を読み通しているわけではない作品だが、最近展開されたタイマン弟の妻編は非常にアクチュアルな情況をエンタテインメント化していて読み応えがあった。主人公は何不自由ない中流家庭で育った大卒学芸員の独身女性だが、成り行きで恋人を実家に紹介せざるを得なくなり、その過程で無意識に高卒専業主婦で子育て中の義理の妹を目下に見ていることを認識せざるを得なくなる。本作で慧眼なのは、モラハラ気味の夫とくらしつつそれでも満足度の高い若い妻というキャラクターの描写。その自意識の強靭ぶりは、現実に独身女として日々他者と出会って実感するものばかりだった。


線場のひと
to-ti.in
戦後すぐの日本。戦禍の街でかつて恋情を確かめ合った二人の女学生を軸にセクシャルマイノリティの米兵、アイデンティティを固めるために収容所から志願した日系アメリカ人という男性陣が絡み、行く先のみえないドラマを展開していく。情念の形は当事者の意識にしっかり沿っており展開はしばしば現実を反映して過酷なのだが、描線のたおやかさと淡々とした演出の静かさが独特の雰囲気を醸し出す。現在はヒロインの一人が消息知れずの同級生を待ちきれずに戦争花嫁の一人になってシアトルに到着したところ。

2023年6月に観た映画

聖地には蜘蛛が巣を張る ('22 デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス/監督: アリ・アッバシ)
監督の前作「ボーダー 二つの世界」は強い質感を放ちながらも複数の社会要素のストーリー上での咀嚼が荒い気がしていたが、本作ではそのウィークポイントが解消されて最後まで緊張の糸がたゆまない。前半は連続殺人スリラー、後半は法廷サスペンスという趣向の二本立ても効いていた。物語の決着は、運命を決める意思決定の在り処や企図があやふやなまま描かれるが、それもむしろ現実味をさらに増して感じさせる。犯人は、自分自身が権威主義の代行者になり他者の存在を毀損していたとともに、さらに上位の権威者によって処刑の不安さえ彼らの権益のダシにされた格好であり、その皮肉さは絞首刑の実行のリアルな再現とともに私たちが生きている現代のこの瞬間が不条理で動いていると鮮明に描き出す。この映画でもっとも生き生きとしていた人物は、威勢のいい口数の多い娼婦だが、彼女が犯人に殺される一連のシーンは異様なまでに写実的に撮られる。女が個性を持つことそのものが罪悪であると顔をしかめる社会が地上にいくつもある現実を伝えるかのように。なお、犯行が明確になった後でさえも犯人の娼婦連続殺人は裁かれるべき悪行ではないという人治主義の訴えの社会的盛り上がりを見せる様子には、あるいは数十年後には自分の国もこういう権威主義国になっているかもしれないと思うと本当にゾッとした。いちおう表面的には理性的なインテリたちが法を動かしているという描写も並行しているのがまたリアルで怖いのだ。


フリークスアウト ('21 イタリア・ベルギー/監督:ガブリエーレ・マイネッティ)
冒頭、マジックリアリズムを採り入れた夢のように美しい画面に突如ナチスドイツの蛮行が闖入する。邪魔すんじゃねえ!ナチ公!!偉そうなあいつらぶっ殺し!多毛症のサーカス団員をしつこくからかい嘲笑った罪で首コキッされてトラックから投げられて、後続のバイク巻き込んだシーンがなぜか笑えてしょうがない。通常とはモラル意識が変わってしまう昨今めずらしい破天荒アクション映画だ。かと思えばユダヤ人として逮捕されて列車に押し込まれる苦境の中でも見知らぬ子供をはげます老人というストレートに情の通った描写も入り込む。それらがマーブルケーキのように混じり合って、そしてクライマックスのナチス追撃隊VSフリークス四人andパルチザンのなにがなんだかわからない乱戦で夜空は花火大会のように彩られる。電気ビリビリ娘と虫あやつりアルビノざんねん美形青年との淡い恋は、そこだけポップメルヘンなんだが浮いてはいない。この二人を主役にしたことによりストーリーは殺伐とした殺し合い展開が多いのに、全体としては色使いや質感がおとぎ話の絵本のようにシックで美しい仕立てになっているというセンスが最高に評価できる。

2023年4月に読んだ本

不死鳥と鏡

色仕掛けにはまって、探偵の役回りを押し付けられる凄腕魔術師という発想がまず天才。ハイファンタジーとミステリーの両方が楽しめる。推理パートのバディ役がまたろくでもない研究室こもり系オタクキャラ(ガチ熟女好き)で… しかし終盤はわりと純愛に収まるので、精緻な長編で面白かった~という満足度の高い読書となる。形式ばってないのに端正な文体もかえって特徴に感じられてよかった。主人公がうぶなわけでもないのに、心や魂、美の真実にこだわる姿勢が作品の屋台骨になっているのがほんと好きだし。 


メアリ・ヴェントーラと第九王国

表題作が寓意のダークファンタジーという印象ですばらしい。かっこいい老婆、フィジカルな活躍はないしやってる事は目覚ましくもないけど主人公の若い娘に掛ける言葉だけでかっこいいぜ。ぴったりのスーツがやがて末っ子に廻ってくる童話のような『これでいいのだスーツ』、よく知らない親戚の葬式でのしらじらした記憶がよみがえる『ミスター・プレスコットが死んだ日』も忘れられない。それにしても『メアリ・ヴェントーラと第九王国』で主人公がこわごわと進んでいく、突き当りにドアのある洞窟のような暗い暗い階段の情景…あの怖れをなぜか私も知っているような気がするんだよな。

2023年4月に観た映画

ダンジョンズ&ドラゴンズアウトローたちの誇り ('23 アメリカ/監督:ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー)
ディズニーランドやUSJのアトラクションを3つほど入った後のような満足感が得られる。こんなまったき充実感を得られる映画は久しぶり。しかもその時の楽しさだけじゃない。反芻にたるお土産までもらえる。だって吟遊詩人なんていう直接戦闘しない職種の中年男性が、剣ではなく心で仲間や娘と力を合わせて、世界転覆を狙う悪意の存在と戦うんだぜ。とにかくストーリーもギミックアイデアも演出テンポもキャスティングも完璧。


崖上のスパイ ('21 中国/監督:チャン・イーモウ)
開戦前夜の導火線くすぶるような中国。雪の野で任務成功を言葉すくなに誓いあう男女四人の抵抗組織工作員たちのシーンが美しい。日本の憲兵が乗車してきた長距離列車の優雅な雰囲気の中での立ち回り、映画館を待ち合わせ場所に利用する冬の上海の瀟洒な通り、ヨーロッパのモノクロ映画のような潜伏先アパートの静逸さ。凄惨な流血のシーンとそれらの情景とが違和感なく溶けあう、映画黄金時代への回帰を意図したような画面づくりがとにかく印象に残る。…それだけに検閲逃れとしてやむを得なく演出を曲げたとしか思えないラストシーンのお涙頂戴ぶりのチープさが、浮いてみえた。