2022年2月に観た映画

ユンヒへ ('19 韓国/監督:イム・デヒョン)

日本映画「Loveletter」に触発されての企画ということで、雪の函館のなんてことない住宅地の景色がとても印象的である。ただ、ドラマの骨格がもうひとつ弱く全体としてボンヤリとした感触。それが、娘と男友人パートのリアルさを生み出してはいるのだが。日本側の女性ふたりの会食での重み、それを示すには年上側が味わってきた社会当たりの強さを示すフラッシュバックなりの映像が欲しかった。ユンヒと兄との隠れた権力関係が暴かれるパートは良かったと思う。

 

シチリアを征服したクマ王国の物語 ('19 フランス、イタリア/監督:ロレンツォ・マトッティ)

日本でも近年いくつか短編集が訳されているディーノ・ブッツァーティの童話が原作。雪原をさまよう髭面の中年男と年若い娘の芸人二人連れ。寒さを避けて迷い込んだ洞窟には先客のクマが!お得意の物語芸をみせて襲われるのを先延ばししようとする。そこで選ばれたのがクマが人間の王を追い出してひととき国を治めたときのお話… とぼけたアイロニーと身につまされるペーソスはまさしくイタリア調。軽やかだけど気鬱さが底を流れ続ける世界観がさっぱりとした線のキャラクターと濃厚な色彩設計とで象られる。巨大猫の突然のアタックを迎え撃つクマ軍団のハラハラさ、秘密の庭園に夜にしのびこむドキドキぶり。そしてやがて悲しう世の終はり。…だけどクマは知っていた。物語は終わっても調和ある世界を求める挑戦は続くという事を。エピソード構成のメリハリ、線のシンプルさからくる動きの楽しさ、不調和ギリギリの鮮やかなコントラストの色彩が伝えてくる多様な視点。まさしくアニメ映画!という満足感がある。

 

フレンチ・ディスパッチ  ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊  ('21  アメリカ/監督:ウェス・アンダーソン)

垂直断面図や部分アニメを駆使して体験する「観る雑誌」。廃れゆく総合文芸雑誌の残り香を、このSNS全盛時代に留めようとする愛らしく淋しげな試み。雑誌は、常に"ここではないどこか"に憧れ、だから見えない場所に居る人々に思いを馳せ、もしかしたらあったかもしれない異なる人生に想像力を遊ばせることができた。芸術、革命、犯罪。すべてを一つの屋根に収めるその媒体の何と奥行きの広いことか。

 

さがす ('22 監督:片山慎三)

行方が突然わからなくなった父を探す中学生の娘は、やがて指名手配された殺人犯と邂逅する。奇妙な運命の縒り合わせで関わりあう人々がやがてはそれぞれに自分が何者であるかを知り、そうすることで相手の内面を反映した像をようやく得る。そこで法の摩擦があったとしても、なお残るものがあるかもしれないという"希望"を提示しているのが本作の美点。「探す」ことは傷を付けすがり合いながら「繋がる」ことであった。…という分かったようなまとめ方では収まらない、渾沌と精緻とが絡み合った作品。

2022年2月に読んだ本

掠れうる星たちの実験

サリンジャーへの作家論である表題作を中心に新刊レビューと未発表作を交えた短編小説とで構成された割と変則的な一冊。この人の書評、わたしよく分かんねえな。でも文章の表面に目を滑らせているだけで気が落ち着くというか何かしらの満足感はあるので、やはり相性がいいんだと思う。今度はパロディやナンセンスから離れた短編集を読んでみたいな。

 

我が友、スミス

派手ではないものの安定した生活環境、精神状況。しかし何かが主人公である三十路のOLを連日の筋肉トレーニングへと向かわせる。出だしからコンテストの顛末まで、一貫して淡々としたリズムで綴られるが、その心の揺らぎはストレートな共感を呼ぶ。文体の表面をうっすらと覆うユーモアですら、リアルを生きる身には懐にひそめた短銃と同じ意味合いなのだと作者と読者の間に生まれる共犯関係。これは最先端の日本ハードボイルド。主人公にコンテストの道を示すトレーナーの性別が最初は明かされない先入観トリックや、ドラマクライマックスの直後に声をかけてくる存在の意外性など、中編ながらも長編に負けない印象の強いフックがいくつもある。

2022年1月に読んだ本

平家物語

小説家の古川日出男による現代訳。自分は馬がかわいそうでつらいので騎上戦よりも舳先が細い船をかち合わせる海上戦の方を重点的に読んだ。しかしなかなかどうして、痛そうというか残酷な描写も多い。それでいてやはり全体が哀調でもってなだめられていて、全ては仏心届ききらぬ情け無き地上のゆえなのですという、納得しがたいことも何とか琵琶の音で合いの手を入れて、皆で吞み込んでその証に語り継ごうやという祈りにも似たシンとした心持ちで大部を読み終えることとなる。ところで後半の構成の話だが、平家一門が主役なのに敵役である義経が兄に追い立てられるようになる様が、まるで平家の中の一員であるかのように錯覚するような趣向になっていて、そこは昔の人もなかなか文芸技巧高いやないかいと感じた。

2022年1月に観た映画

「偶然と想像」(’21 /監督:濱口竜介

オムニバス3つとも、予測の付かないドラマと実在感のある演出とで一瞬も退屈させられる隙がない。想像の先にまた偶然が生まれ、想像を超えて偶然はめぐり来る。世界への皮肉な視点さえ自ら包括するかのような豊かで伸びやか、そして危険なまでに自由な映画。

<旧作>

「ブレンダンとケルズの秘密」(’09 フランス、ベルギー、アイルランド/監督:トム・ムーア)

バイキングの襲来を常に恐れなければならなかった中世のアイルランド。その修道院で暮らす少年と森の妖精との交流を軸に、書物への賛歌を謳い上げるアニメーション。平面的な線と、それこそ稀覯本のような鮮やかさとシックさを兼ね備えた色彩で、森の自然と書物の中の世界、そして修道院長の指揮で造られる砦の中の陰鬱な空間。それぞれがふしぎと質感を持ってこちらに迫ってくる。妖精のような魔女のような存在のアシュリンは銀色のなびく髪の動きと歌い声とで存在感があるが、ほんの少しでも主人公の少年が恋愛の対象として彼女に惹かれる瞬間が欲しかった気もした。『ケルズの書』を書く修道士の猫がアシュリンの手引きで、いっときだけ精霊化するシーンが最もワクワクさせられた。アシュリンが森の王の影響で一気に老け込んでみえる演出の意図や、森の力が凝縮されたレンズを純真な者が奪い取るテーマの意味については、踏み込みが足りずにもったいなく感じた。

 

2022年冬期のアニメ視聴状況

<新規>

進撃の巨人 The Final Season(第二期)

非常に滑らかな導入の再開第1話だった。

鬼滅の刃 遊郭

TV第一期や無限列車編より更にアニメスタッフの意図が鮮明になってきた。

TRIBE NINE

エクストリーム野球。やきうはニッポンジンの魂。高い脚本力に堅実な演出性。

錆喰いビスコ

ラノベ発ファンタジーらしいが、異色の設定と雰囲気。乾いた画面づくりが心地よい。

時光代理人

中国アニメ。時空を超えて現代社会の糸のほつれを解明。背景美術や処理が美しい。

薔薇王の葬列

ピクチャードラマに近いつくりで、キャスティングに注力。歴史勉強枠として。

平家物語

すでにFOD配信で視たが、二周めでも飽きない。

 

<継続>

(視聴遅れ気味で実質着いてけてないんだけど一応…)

SHAMAN KING

ルパン三世 PART6

半妖の夜叉姫(第二期)

第62回2022冬調査

アニメ調査室(仮)さんにて開催中。以下、回答記事です。

 

2022冬調査(2021/10-12月期、終了アニメ、60+2作品) 第63回

01,takt op.Destiny (タクトオーパス),x
02,MUTEKING THE Dancing HERO,F
03,プラオレ! PRIDE OF ORANGE,x
04,TSUKIPRO THE ANIMATION2,x
05,ビルディバイド #000000,x

06,SELECTION PROJECT,x
07,SCARLET NEXUS,x
08,わしも (9期),x
09,ぐんまちゃん,x
10,テスラノート,F

 

11,サスとテナ,x
12,シキザクラ,x
13,かぎなど,x
14,サクガン,F
15,海賊王女,x

16,境界戦機,F
17,異世界食堂2,x
18,ブルーピリオド,x
19,見える子ちゃん,x
20,吸血鬼すぐ死ぬ,B

 

21,メガトン級ムサシ,B
22,大正オトメ御伽話,x
23,キンタマーニドッグ,x
24,でーじミーツガール,x
25,最果てのパラディン,x

26,月とライカと吸血姫,x
27,逆転世界ノ電池少女,F
28,ヴィジュアルプリズン,x
29,白い砂のアクアトープ,x
30,闘神機ジーズフレーム,x

 

31,さんかく窓の外側は夜,x
32,先輩がうざい後輩の話,x
33,ジャヒー様はくじけない!,x
34,キミとフィットボクシング,x
35,マブラヴ オルタネイティヴ,x

36,古見さんは、コミュ症です。,x
37,やくならマグカップも 二番窯,x
38,ワールドトリガー 3rdシーズン,F
39,180秒で君の耳を幸せにできるか?,x
40,結城友奈は勇者である 大満開の章,x

 

41,ディープインサニティ ザ・ロストチャイルド,x
42,カードファイト!! ヴァンガード overDress Season2,x
43,真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました,x
44,吉田勝子のヤバイわ! SDGs 荒ぶる! トラブル! サステナブル!,x
45,無職転生 異世界行ったら本気だす 第2クール,x

46,世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する,x
47,進化の実 知らないうちに勝ち組人生,x
48,(地上波初放送) 終末のワルキューレ,x
49,(全9話) 魔王イブロギアに身を捧げよ,x
50,(全8話) しょうたいむ! 歌のお姉さんだってしたい,x

 

51,(全7話) 鬼滅の刃 無限列車編 (TV放送版),B
52,(ネット配信) アサルトリリィふるーつ,x
53,(ネット配信) がんばれ同期ちゃん,x
54,(ネット配信) 月曜日のたわわ2,x
55,(9月終了) KICK&SLIDE,x

56,(9月終了) 妄想宇宙人バブちゅ~,x
57,(10月終了) カオルの大切なモノ,x
58,(10月終了) キングダム 第3シリーズ,x
59,(10月終了) ラブライブ! スーパースター!!,F
60,(10月終了) もっと! まじめにふまじめ かいけつゾロリ 第2シリーズ,x

 

61,(特番) ロード・エルメロイII世の事件簿 魔眼蒐集列車 Grace note 特別編,x
62,(特番) 魔法科高校の劣等生 追憶編,x

 

〈総評/寸評〉

今期はいつになく途中で視聴が断絶した作品が多くなった。これは当該作品への興味が急激に薄れたというわけでなく、読書注力や新生活対応などへの単純な時間割り振りの結果なのです。

「吸血鬼すぐ死ぬ」B:原作の雰囲気に忠実にアニメ化しつつ、ファンを喜ばせて、制作している自分たちも楽しくつくろうという三面がよく揃っていた。キャラ理解への深度が徐々に高まるシリーズ構成の粋さも強い印象を残した。

「メガトン級ムサシ」B:アナクロなロボットアニメのドラマ要素を組み合わせて、現代的なものに仕立てた狙いが視聴意欲を牽引してくれた。鉄のかたまりというオブジェクト性を意識させるメカ描写もいい。

「(全7話) 鬼滅の刃 無限列車編 (TV放送版)」B:テレビエピソードに編集しなおしても違和感なく楽しめた。劇場版よりむしろ落ち着いて視られた構成の上手さ、新規カットの多さもファンサービスを感じた。

2021アニメ10選

今年は自分が偏愛するロボットアニメがいつになく充実していたが、中でもこの5作。

 

〈映画〉閃光のハサウェイ

〈映画〉シン・エヴァンゲリオン劇場版:||

〈映画〉蒼穹のファフナーTHE BEYOND

〈TV〉ゲッターロボアーク

〈TV〉メガトン級ムサシ

 

 2021年はSNSのアニメファンクラスタでしばしば議論されていた“ロボットアニメは滅ぶか否か”という命題に一つの答えが出た。ロボットを巨大怪獣のように捉えて構図を組むという演出上の発明を、伝統の長いガンダムシリーズで前触れもなく実行して従来のファン層を超えた支持を得た「閃光のハサウェイ」が完結するまでは、すくなくとも日本ロボットアニメの改新の系譜は途絶えることはない。

 思い切った企画を完成にまで漕ぎつけたという意味では「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」もベクトルは違えど同様で、ささくれだった神経で少年主人公を追い詰めるように施されたテレビ版の演出をあっさりと振り切るかのように、農村回帰描写やら父子の腹を割った対話を経た末の、ポッと出の他者であったはずの少女と手を取り合い未知へと駆け出していくという誰も予想しなかった結末。世代的な思い入れこそあったものの肩入れはさほどでもなかった自分のようなクチには、これ以上ないほど素晴らしい音響で流れる宇多田ヒカル『One Last Kiss』とともに思わず拍手を送りたくなるような開放感を受けた。

 前時代の電化製品が無造作にガラクタの山と積まれインフレが進んでコンビニ弁当が3000円する世界に育った主人公が、運命の器である巨大ロボットに乗り込むという出だしで始まる「ゲッターロボアーク」。ビジュアルこそ昭和のままのような荒い線だが、作品に漂っていた空気には確かなアクチュアルがあった。原作が途絶したままという事情を超える必要があった制作側の状況は、絶望的なまでに強大な力を持つ正体すら不可知の敵に立ち向かいつづける宿命を負うパイロットたちの意志と映像上で重ねられる。

 ゲッターロボといえばいまだに新作リリースが続くゲーム「スーパーロボット大戦」の『御三家』と呼ばれるほどに合体ロボットアニメの元祖として若い層にも認知されているわけだが、まさしく主役機が三機離脱可能の「メガトン級ムサシ」はこれまで制作されてきた戦闘ロボットアニメのジャンル的に蓄積されてきたギミックの組み合わせを意識して多数用いて設定がつくられており、いわば“ひとりスーパーロボット大戦”とでも呼べそうな趣向のテレビシリーズとして実際に放映にまで漕ぎつけたその大胆さが斬新に感じられた。なおストーリーの根底には人間が本能的なまでに持つ内外への差別心がテーマに設えられており、ここでも現代性という的は外されていない。

 さて90年代に「新世紀エヴァンゲリオン」の社会現象化が起こった後、人類絶対生存圏をギリギリで攻防する代償に未成年パイロットが精神を消耗していくという趣向を踏襲した作品がいくつか作られた中で、特に根強い支持を受けて17年もの長きに渡って続いたシリーズの最終章が蒼穹のファフナー THE BEYOND」。この作品は劇場先行上映ながら実際の制作スタイルは全12話×30分弱のOVAであり、そこでなぜこれまでのようにテレビ放送という形を取らなかったかについては日本経済の推移について思いいたらざるを得ない。さらにはこの内容なら1クールという尺は短いと感じる部分もいくつかあり、ストーリー構成の緻密さでは先行の長編シリーズ二作からやや劣るというのが自分の評価だ。…しかし逆に。そうした製作上の(想像される)逆境を潜り抜けて第11話では作画カロリーを注いでのオール戦闘アクション、最終話ではこれまでのシリーズ全部を総括するエピローグに丸々割くというファン冥利を尽くした構成を選ぶことで、劇場で見知らぬ観客同士が無言で場を共有するという興行に最適化した仕上げ方を見せてくれたスタッフ各位には一ファンとして感謝という言葉では足りない気持ちだ。

  

次に、年間ベストの枠を超えて日本テレビアニメ史に残る可能性が高い2作。

 

〈(配信先行型)TV〉ゴジラS.P

〈(配信先行型)TV〉平家物語

 

ネット配信はもはやテレビ放送とリニアであって当然という状況を超えて、2021年には地上波にすら先駆けてサブスク方式プラットフォームで毎週公開されるという例が、複数の注目作品において目立った。様々な声がSNS上で散見されるが、ずっと非テレ東放映圏に住んでいる身としては是非もなしという心境だ。というか、一週という絶妙な先行具合でこれまでにないSF(Speculative Fiction)感覚を楽しめた「ゴジラS.P」の場合において、地方アニメファンとして初めての視聴優越感を味わっていた件についてはここで告白しておく。

 「平家物語」は最終話配信後に集中して実質三日ほどで視終えた。敗者の美学として名高い古典を原作としながら、抑制の効いた画面づくりによって過剰な情動付けを避けてサラリと楽しめる娯楽性の高さで、視聴環境に左右されない正統派文芸アニメに仕上がっている。脚本、演出、演技、デザイン、音響。すべてが絵巻物のように調和しており、時間芸術でありながらも時間感覚を忘れるような傑作。

 

近年、各種媒体から目に飛び込んでくる『多様性』というキーワードを作品鑑賞においてどう関連づけるかは人それぞれだが、自分の場合はまずもって“傷ついた心を抱える人の描き方”が指標のカギとなる。最後の3作はその視点から推挙したく思った。もちろん評価する面はそこに留まらない。

 

〈映画〉漁港の肉子ちゃん

〈TV〉舞妓さんちのまかないさん

〈配信〉Arcane

 

 「漁港の肉子ちゃん」は明石家さんまのプロデュースにSTUDIO4℃制作で、家族の絆をテーマとした異色の座組みという時点ですでに自分の好みに合う予感がバチバチにあった。はたして期待は裏切られず、中盤で主人公家庭にまつわるプロット上のサプライズまで仕込まれるという興行映画の必要条件を卒なく満たした上で、アニメーションでしか出来ないメタモルフォーゼの運動、すなわちファンタジーが山盛りにされた作品。流動性の高くない田舎の漁師町にて何とはなしの疎外感に戸惑う主人公少女の、心の微妙なゆらめきが言葉にならない次元で形をとるという趣向が幾度も炸裂する。

 NHKETVのミニ枠でアニメ化された「舞妓さんちのまかないさん」の主人公は幼なじみと一緒に京都で舞妓をめざずために故郷を出るのだが、稽古の早い時期に脱落してしまい女将から契約解除を言い渡されてしまう。しかしその段階では彼女の心の痛みは描かれずに、そのまま料理担当の『まかないさん』として居場所を得るという展開に滑らかに移る。感情の現れ方は人さまざまだという表現のさりげなさは、令和のスタンダードはこうなっていくだろうなと想像させてくれるものだった。その後、主人公は舞妓の素質を高く評価されてデビューする幼なじみのために料理を工夫することで自らの生活を満たしていく。夢への関わり方は人それぞれの道があっていいとセリフではない機微で伝えてくる作品で、暖色を基調として温かみのある感触を印象させる色彩設計も秀逸。

NETFLIXオリジナルアニメ「Arcane」の原作である「リーグ・オブ・レジェンド」がどういったバックストーリーを持つどんなプレイ形式のゲームかも全く知らず視聴を始めたわけだが、アニメシリーズのタイトルの意味については調べてみた。一つの意味は『秘儀』。これは登場人物たちが武器にしたり、世界改変を夢見て研究対象にしている謎の力を示しているとして、もうひとつの意味の『難解な,外部の者には理解しがたい』、こちらの方がテーマをより表している気がする。このアニメのキャラクターたちは目的や動機によって徒党こそ組んでいるとはいえ、もっとも近しい者にさえ説明しきれない心の鬱屈や埋めきれないトラウマの傷に常に精神を抑圧されている。その絶え間ない苦悩が、これまでの作品にない繊細な仕草や表情で表現されてドラマを彩る。SNSで大きく驚かれていた油彩画のような質感の3DCGアニメーションは、その為の最適解として選ばれていたと(たとえ機序が逆であるとしても)納得させられるのだ。空中アクロバットのような構図が活かされるアクションコンテといい、最先端のアニメを送り出してきたのが自分のお気に入りにしているプラットフォームのNETFLIXだったというのは単純に嬉しかったりもする。