2021アニメ10選

今年は自分が偏愛するロボットアニメがいつになく充実していたが、中でもこの5作。

 

〈映画〉閃光のハサウェイ

〈映画〉シン・エヴァンゲリオン劇場版:||

〈映画〉蒼穹のファフナーTHE BEYOND

〈TV〉ゲッターロボアーク

〈TV〉メガトン級ムサシ

 

 2021年はSNSのアニメファンクラスタでしばしば議論されていた“ロボットアニメは滅ぶか否か”という命題に一つの答えが出た。ロボットを巨大怪獣のように捉えて構図を組むという演出上の発明を、伝統の長いガンダムシリーズで前触れもなく実行して従来のファン層を超えた支持を得た「閃光のハサウェイ」が完結するまでは、すくなくとも日本ロボットアニメの改新の系譜は途絶えることはない。

 思い切った企画を完成にまで漕ぎつけたという意味では「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」もベクトルは違えど同様で、ささくれだった神経で少年主人公を追い詰めるように施されたテレビ版の演出をあっさりと振り切るかのように、農村回帰描写やら父子の腹を割った対話を経た末の、ポッと出の他者であったはずの少女と手を取り合い未知へと駆け出していくという誰も予想しなかった結末。世代的な思い入れこそあったものの肩入れはさほどでもなかった自分のようなクチには、これ以上ないほど素晴らしい音響で流れる宇多田ヒカル『One Last Kiss』とともに思わず拍手を送りたくなるような開放感を受けた。

 前時代の電化製品が無造作にガラクタの山と積まれインフレが進んでコンビニ弁当が3000円する世界に育った主人公が、運命の器である巨大ロボットに乗り込むという出だしで始まる「ゲッターロボアーク」。ビジュアルこそ昭和のままのような荒い線だが、作品に漂っていた空気には確かなアクチュアルがあった。原作が途絶したままという事情を超える必要があった制作側の状況は、絶望的なまでに強大な力を持つ正体すら不可知の敵に立ち向かいつづける宿命を負うパイロットたちの意志と映像上で重ねられる。

 ゲッターロボといえばいまだに新作リリースが続くゲーム「スーパーロボット大戦」の『御三家』と呼ばれるほどに合体ロボットアニメの元祖として若い層にも認知されているわけだが、まさしく主役機が三機離脱可能の「メガトン級ムサシ」はこれまで制作されてきた戦闘ロボットアニメのジャンル的に蓄積されてきたギミックの組み合わせを意識して多数用いて設定がつくられており、いわば“ひとりスーパーロボット大戦”とでも呼べそうな趣向のテレビシリーズとして実際に放映にまで漕ぎつけたその大胆さが斬新に感じられた。なおストーリーの根底には人間が本能的なまでに持つ内外への差別心がテーマに設えられており、ここでも現代性という的は外されていない。

 さて90年代に「新世紀エヴァンゲリオン」の社会現象化が起こった後、人類絶対生存圏をギリギリで攻防する代償に未成年パイロットが精神を消耗していくという趣向を踏襲した作品がいくつか作られた中で、特に根強い支持を受けて17年もの長きに渡って続いたシリーズの最終章が蒼穹のファフナー THE BEYOND」。この作品は劇場先行上映ながら実際の制作スタイルは全12話×30分弱のOVAであり、そこでなぜこれまでのようにテレビ放送という形を取らなかったかについては日本経済の推移について思いいたらざるを得ない。さらにはこの内容なら1クールという尺は短いと感じる部分もいくつかあり、ストーリー構成の緻密さでは先行の長編シリーズ二作からやや劣るというのが自分の評価だ。…しかし逆に。そうした製作上の(想像される)逆境を潜り抜けて第11話では作画カロリーを注いでのオール戦闘アクション、最終話ではこれまでのシリーズ全部を総括するエピローグに丸々割くというファン冥利を尽くした構成を選ぶことで、劇場で見知らぬ観客同士が無言で場を共有するという興行に最適化した仕上げ方を見せてくれたスタッフ各位には一ファンとして感謝という言葉では足りない気持ちだ。

  

次に、年間ベストの枠を超えて日本テレビアニメ史に残る可能性が高い2作。

 

〈(配信先行型)TV〉ゴジラS.P

〈(配信先行型)TV〉平家物語

 

ネット配信はもはやテレビ放送とリニアであって当然という状況を超えて、2021年には地上波にすら先駆けてサブスク方式プラットフォームで毎週公開されるという例が、複数の注目作品において目立った。様々な声がSNS上で散見されるが、ずっと非テレ東放映圏に住んでいる身としては是非もなしという心境だ。というか、一週という絶妙な先行具合でこれまでにないSF(Speculative Fiction)感覚を楽しめた「ゴジラS.P」の場合において、地方アニメファンとして初めての視聴優越感を味わっていた件についてはここで告白しておく。

 「平家物語」は最終話配信後に集中して実質三日ほどで視終えた。敗者の美学として名高い古典を原作としながら、抑制の効いた画面づくりによって過剰な情動付けを避けてサラリと楽しめる娯楽性の高さで、視聴環境に左右されない正統派文芸アニメに仕上がっている。脚本、演出、演技、デザイン、音響。すべてが絵巻物のように調和しており、時間芸術でありながらも時間感覚を忘れるような傑作。

 

近年、各種媒体から目に飛び込んでくる『多様性』というキーワードを作品鑑賞においてどう関連づけるかは人それぞれだが、自分の場合はまずもって“傷ついた心を抱える人の描き方”が指標のカギとなる。最後の3作はその視点から推挙したく思った。もちろん評価する面はそこに留まらない。

 

〈映画〉漁港の肉子ちゃん

〈TV〉舞妓さんちのまかないさん

〈配信〉Arcane

 

 「漁港の肉子ちゃん」は明石家さんまのプロデュースにSTUDIO4℃制作で、家族の絆をテーマとした異色の座組みという時点ですでに自分の好みに合う予感がバチバチにあった。はたして期待は裏切られず、中盤で主人公家庭にまつわるプロット上のサプライズまで仕込まれるという興行映画の必要条件を卒なく満たした上で、アニメーションでしか出来ないメタモルフォーゼの運動、すなわちファンタジーが山盛りにされた作品。流動性の高くない田舎の漁師町にて何とはなしの疎外感に戸惑う主人公少女の、心の微妙なゆらめきが言葉にならない次元で形をとるという趣向が幾度も炸裂する。

 NHKETVのミニ枠でアニメ化された「舞妓さんちのまかないさん」の主人公は幼なじみと一緒に京都で舞妓をめざずために故郷を出るのだが、稽古の早い時期に脱落してしまい女将から契約解除を言い渡されてしまう。しかしその段階では彼女の心の痛みは描かれずに、そのまま料理担当の『まかないさん』として居場所を得るという展開に滑らかに移る。感情の現れ方は人さまざまだという表現のさりげなさは、令和のスタンダードはこうなっていくだろうなと想像させてくれるものだった。その後、主人公は舞妓の素質を高く評価されてデビューする幼なじみのために料理を工夫することで自らの生活を満たしていく。夢への関わり方は人それぞれの道があっていいとセリフではない機微で伝えてくる作品で、暖色を基調として温かみのある感触を印象させる色彩設計も秀逸。

NETFLIXオリジナルアニメ「Arcane」の原作である「リーグ・オブ・レジェンド」がどういったバックストーリーを持つどんなプレイ形式のゲームかも全く知らず視聴を始めたわけだが、アニメシリーズのタイトルの意味については調べてみた。一つの意味は『秘儀』。これは登場人物たちが武器にしたり、世界改変を夢見て研究対象にしている謎の力を示しているとして、もうひとつの意味の『難解な,外部の者には理解しがたい』、こちらの方がテーマをより表している気がする。このアニメのキャラクターたちは目的や動機によって徒党こそ組んでいるとはいえ、もっとも近しい者にさえ説明しきれない心の鬱屈や埋めきれないトラウマの傷に常に精神を抑圧されている。その絶え間ない苦悩が、これまでの作品にない繊細な仕草や表情で表現されてドラマを彩る。SNSで大きく驚かれていた油彩画のような質感の3DCGアニメーションは、その為の最適解として選ばれていたと(たとえ機序が逆であるとしても)納得させられるのだ。空中アクロバットのような構図が活かされるアクションコンテといい、最先端のアニメを送り出してきたのが自分のお気に入りにしているプラットフォームのNETFLIXだったというのは単純に嬉しかったりもする。