2018年10月に読んだ本まとめ

大正=歴史の踊り場とは何か


江戸時代からの脱皮、再構築であった明治を継いでの大正期には、現代に直接的に繋がる政治や文化のシステムの完成が見られた。さまざまな分野(なかでも“校歌”を取り上げる着眼点は面白い)での検証で照射される平成の日本の現状。


隣接界

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


プリーストのこれまでの作品のモチーフが散りばめられた長編SF小説量子論がうむポルターガイスト現象があらわになる瞬間の描写にはゾッとさせられて、やはりイギリスは怪談の本場だなと思うなど。「夢幻諸島から」の不可思議な地理への理解が少し進んだような気持ちになれたのは収穫だし、「限りなき夏」のラブストーリー性のよりすすんだ着陸点にエモーションを覚えた。登場人物が絡み合い収束していくくだりには、これまでのプリースト作品にはないストレートに近い感動がある。そういえば描写や文体もこれまでになく直截的。

ワイルドフラワーの見えない一年

ワイルドフラワーの見えない一年

ワイルドフラワーの見えない一年


詩に近いテンポの短編集。雑誌連載を元にしているため、前衛的な趣向のものも多い。表題作は雑草とよばれる花々を市井の平凡な女性たちに例えていて、駅ですれ違う顔のない顔たちの点描があざやかに像を結ぶ。ユーモラスな作品も多く気軽に読める。

イギリス文学を旅する60章 (エリア・スタディーズ)

イギリス文学を旅する60章 (エリア・スタディーズ)

イギリス文学を旅する60章 (エリア・スタディーズ)


古代を題材にしたアーサー王伝説の舞台から、現代でノーベル賞を受賞したカズオ・イシグロゆかりの地までをガイドブック調に紹介しながらイギリス文学史を学べる趣向。いざページを繰り始めるとなかなかの読みごたえであった。