2021年7月に観た映画まとめ

グンダーマン 優しき裏切り者の歌 ('18 ドイツ/監督:アンドレアス・ドレーゼン)

全くの余談だが、友人から想い人を寝取る展開は「バック・ビート」を、愛する人に抱擁されて苦悩と向き合う覚悟を決める主人公の感情表現に「ミュンヘン」を、そして社会生活のままならなさに縛られることなく自らの才能を思う存分に拡げる芸術家の姿に「ビーチ・バム」を思い出していた。グンダーマンが素性のあやふやな男に勧誘され、意識してかしまいでか友人や隣人を裏切り売り渡すような"副業"に手を染めて、そして情報が開示されるその時には身の振り方に動揺する。東ドイツのシュタージ協力者の視点から映画をつくる事で、弱さはあっても悪人というカテゴリーには及ばない大勢の姿を逆照射する試みが新しい。ヒエラルキーが温存された労働と社会システムの象徴として何度も映る巨大ロボットのような石炭採掘重機、バックバンドの演奏と共に胃の底に響いてくるグンダーマン役俳優の歌声が印象として焼き付く。なお、時間が行きつ戻りつする構成はやや分かりづらかった。

 

竜とそばかすの姫 ('21/監督:細田 守)

ネット世界を荒らす嫌われ者の正体への布石があまりに貧弱で、リアルなDV描写が構成の中から浮いてしまっているのが残念。主人公の家庭観と絡めて構成すればもっと有機的なシナリオになったはず。同級生とのやり取りもあまりに表層的だが、なんだかんだで等身大の自分をさらけ出して特定の誰かの心を開こうとする展開への繋ぎ方には胸の中でこみ上げるものがあったのは演出力の高さのおかげ。カラフルで空間認識に長けた電脳世界の描写はスクリーンで映えて、またメジャーリーガーのバットを振り切るシークエンス、カヌーが河をくだる中景など、純粋にアニメとして目を引くシーンがいくつもあった。

 

ライトハウス ('19 アメリカ、ブラジル/監督:ロバート・エガース)

プロメテウス神話が人物からモノローグのように吐露され、二人の男たちは灯台の中心部を独占することが、男性中心主義における支配権と同一だと取り憑かれているとうかがえる。海という女性原理の象徴に何度も惑わされるが、それも彼らの妄執を強めるのみ。…という寓意は観て大分経ってから当てはめた。正方形に近いスクリーンサイズの中、モノクロに煮詰まっていくかのような閉塞的な世界観。権力に飢えた者はその空虚さに眩むことで転落して内臓を永遠についばまれる。…もう一度、エロスに注目して観返してみたいな。

 

<ネット配信で視たもの>

愚行録 ('17/監督:石川 慶)

もつれにもつれた男女模様の聞き取りから浮かび上がる、底無しの足の引っ張りあいに、シンプルに描かれた殺人行為がカタルシス一歩手前に映る。いつか誰もが、自分が誰かの感情や衝動の『器』にしか過ぎない存在と気付いてしまうとすれば、殺人とは誰もが日々書き綴る<愚行録>の単なる一章、ただそれだけのことなのかもしれない。不穏さと諦念とを保ち続ける演出のグリップが素晴らしかった。最後のサプライズ展開は真偽をぼかす形にした方がより良かったかもしれない。