2021年4月に読んだ本まとめ

炎と血 (Ⅰ,Ⅱ)

炎と血 Ⅰ

炎と血 Ⅰ

 
炎と血 Ⅱ

炎と血 Ⅱ

 

 当世最高の異世界ファンタジーシリーズ「氷と炎の歌」のスピンオフである前日譚。学僧が綴る歴史文書の体裁を取ることで、よくある中世風ファンタジーの陳腐さから逃れ、あまつさえ叙述ミステリの手法によって読者の想像の領域をより膨らませてくる。そして読者は、本伝主人公の一人デナーリス王女の数世代前の祖先が戦乱と謀略の中をそれぞれの個性をむき出しに生きた時代へと、時に繊細に時に荒々しく描くマーティン節により本の中の世界に没頭し、戦慄したり嘆息したりする。こんな歓びは本当に、本当に他にない。マーティン兄貴は神。創造主。ターガリエン家は良くも悪くも激しい性分を受け継ぎ、なかでも女性たちの自我の強さは男性陣以上に印象に残る。しかしその特権階級としての呻吟は、時代モデルである現実の近世で言葉のひとつ、悲鳴のひとかけさえ遺らなかった市井の女たちへの想像さえ読者の鼓膜に反響させる。桁違いの作家を浴びたければ、本伝を読んでなくともこちらを先に手に取るべし。