エンターテイメント性と寓話の鮮やかさの両立においては当世最高の作家ではともはや思えてくるこの完成度。外れのない
モダンホラー短編集。会話が、クドくないのにその焦燥感が手に取るように伝わってくるあたりに巧さが在る。あと女性を全然偶像視せずにリアルな存在として描いてるのも何気にすごいよね。印象的なのはやはり中篇ふたつで、「
洋梨形の男」は
アウトサイダー当番制とでもいえる
社会心理学風の作品。ア
イデアの展開と文体構成とが光る。「成立しないヴァリエーション」もまた疎外感がテーマの一つ。倫理判断の苦さを残しつつ、個人の強い意志が何を置いても価値があると淡々と据え置くこのハードボイルドぶりこそマーティン節。しかし「
思い出のメロディー」にしろ、
アメリカでは常に人生の勝者でいないといけないという強迫観念が蔓延しているのだろうか。しんどそうだ。