僕は問題ありません

僕は問題ありません (モーニング KC)

僕は問題ありません (モーニング KC)

第1短編集「変身のニュース」と同じく、連続性のない短編で綴られるオムニバス。ただしテーマの在り方にこちらの方がシリーズとしての一貫性があるようにも感じられた。それは作家性の軸がさだまってきた事を意味するのか、あるいはマンネリズムに足を踏み入れてしまったのかは次作を待たねばならない。
幸せの有りようが世間とズレてしまった人、その余波を受けた人。生きていくのに“問題”があるかないかは本人にだけしか決められず、それを認めるというのが宮崎夏次系の描く愛の形であり、例に一つあげれば長年仲たがいしていた兄と妹を意図せずして同時に救った冴えない男の物語(第三話『はねる』)の奇妙な筋運びには息を呑む。なんと鮮やかな、それでいて不器用な結末。また、タッチに透明感が増してきているのが見てとれるのもこの作品集の特徴で、掉尾を飾る前後編『肉飯屋であなたと握手』で少女と同級生が見出す過去と現在をつなぐひとつの造形物が(文字通りに)立ち上がるその空気と光線が示す意識変容ぶりは、感動に近い情動をわたしたちにもたらす。漫画で出来ることはまだこんなにあった。そんな誰よりも新鮮な漫画家なのが、宮崎夏次系というプロフィールの公開されていない連載デビュー二年目の新人だ。