バン、バン! はい死んだ

バン、バン! はい死んだ: ミュリエル・スパーク傑作短篇集

バン、バン! はい死んだ: ミュリエル・スパーク傑作短篇集

ごく最近になって関連書籍が複数出ているミュリエル・スパークの日本オリジナル短編集。印字が目になじむ本体ページ、作品イメージに合致した表紙装画と、装丁が中身に劣らず素晴らしかった。巷の人々の意地悪さを、淡々と描き出すことで不思議とそれらを昇華するスパークの作品群は読んでいて妙なことに爽快感をおぼえる。収まるところに収まった具合の結末、徹底してあらゆる登場人物を距離を置いた場所から眺める視点の動かなさ。第二次大戦中に敵国への情報霍乱の文面や、そのための情勢報告を書く仕事をしていたというスパークの文体の簡潔さがその印象をさらに強める。なお、私が初めて触れたスパーク作品は本書収録の「捨ててきた娘」(訳者が異なるのでそのアンソロジーでは「棄ててきた女」という題名だった)。やはり今でもこの短編がもっとも好きで、ミステリホラーな不気味さ、自我のありかの形の無さへの実存、不満だらけの日常でもしがみつきたい衝動を覚える侘しさ、すべての要素がすばやく精確にシェイクされたカクテルのような粋を感じる。