ドラゴン・タトゥーの女('11/監督・デヴィッド・フィンチャー)

様々な社会的メッセージが繊細に折りたたまれており、それが重奏的に成立し、同時にそれぞれの衝突での破綻がないという極上の映像美学をたっぷり二時間半も堪能することが出来た。OP映像からして、ヒロインの間接的なキャラクター紹介となっている趣向の隙の無さよ。推理もの、ファミリー物語、恋愛ドラマ、マイノリティ・テーマなど複数の要素が詰められているが、なかでも印象的なのは、クライマックスシーンを彩っていたヒロイックな昂揚だろう。社会からわけもなく迫害を受け続けてきたらしいリスベットは、同志的連帯を持ったミカエルの危機を救う事で弱者から追跡者へと転じる瞬間を得た。そのカタルシスには、手放しで共感できる単純さはないもののそれ故に強い同時代性を感じる。高度に発達して複雑した社会においては、もはや共通した敵対者への苛烈さでしか大切な相手への絆を示せないのかもしれない。ラストシーンのリスベットには、アメコミのヒーローにも似た宿命的な孤独の悲哀を感じるのだ。