野火('14/ 監督:塚本晋也)

太平洋戦争に徴兵された作家が主人公という時代設定から、モノクロ映画の質感を残したレトロ調のフィルムに仕上げてあるのかなと想像していたが、実際には天然色という飾り文句が浮かんでくるようなジャングルの木々と花とが鮮やかな映像だった。その点もあり、ここで描かれる不条理劇が私には自分が今いる社会、さらに具体的にいえば職場の空気と地続きになっていると感じざるを得なかった。いがみあい、喰らいつき、遠い他者を人間以外のものとみて差別するその暗い火は、外からやってくるものではない。それは常に私たちの内側にあり、何かのきっかけで熾されるに過ぎない。詩的とさえいえる自然の美しさ、(塚本映画の特色の)オブセッションのままに動く人間の滑稽さ。両者の噛み合ってなさに、かの戦争に従事した人々の無念さをも感じ取る。しかし地獄はなにも戦場からだけ匂い立つものではないことも、(これまた塚本映画の特徴の)凄惨死体のシーンの多いこの作品はつきつけてくる。種火が完全に精神から消される日は来ない。