グスコーブドリの伝記('12/監督:杉井ギサブロー)

主人公の心情が、フィルム上にしっとりと定着する前に場面が移ってしまうために感情移入がおもいのほか難しい。これなら、もっとストレートに家族愛や自然への畏怖を前面に出した方がよかったかもしれない。自己犠牲精神の是非や有無を鑑賞者に委ねる形にしたと思われるラストも、斬れ味が鈍い。…もはや、特攻隊の記憶が消えることのないこの共同体において“純粋”な自己犠牲を問うこと自体が無理筋すぎたのかもしれない。となると企画そのものに瑕疵があることになるが… それはさておき作画面に触れるが、ブドリの子ども時代の象徴である森は、豊かな実りの年も飢饉を起こした年もどちらも等しく美しい。その点が非常に切なかった。イーハトーヴの未来都市としてのガジェットの数々の硬質感とが、相互に引き立てあっていてビジュアル映画としては申し分がないだけに、よけいに脚本構成の詰めの甘さが惜しくなる。ブドリの幻想の境界を描く意味が、火山局員としての最後の仕事に反映している関係性を、納得させるに足るレベルには達していないと観ていて私は感じた。うーん、現実と(家族で唯一生き残ってしまった罪悪感からくる)妄想の間で人知れず苦悩する青年に成長したブドリが、譫妄症状に近い行動に走ってしまい、クーボー博士がそれを悼みながらも感謝する、そういう筋をはっきり表してくれた方がまだ…