幸せな秋の野原

幸せな秋の野原―ボウエン・ミステリー短編集〈2〉 (MINERVA世界文学選)

幸せな秋の野原―ボウエン・ミステリー短編集〈2〉 (MINERVA世界文学選)

邦訳第一短編集「あの薔薇を見てよ」よりも、やや翻訳の摑み具合が弱いようで、読んでいて散漫な印象も多少持った。そんな中でプロットも訳文も一番いいなと思ったのはずっと年上の女性にほのかに憧れる少年が徐々に出会う現実の様相を描き出した『蔦がとらえた階段』。意地悪ともいえる鋭い人間観察の眼力が発揮された『バレエの先生』や『そしてチャールズと暮らした』、女性キャラクターの印象が強烈な『あの一日が闇の中に』も佳い。しかしこの上品にして容赦がない筆致、ボウエンはミステリ色豊かでありながら、本質はほとんどホラー作家なのではないかと思える。