肝臓先生

肝臓先生 (角川文庫)

肝臓先生 (角川文庫)

TVアニメ『UN-GO』の影響により、十数年ぶりに坂口安吾の単行本を買ってみることにした。表題作が数年前に映画化された折に編まれた短編集だが、分量が最も多い事もあって生々しい男女間の愛憎をさらりとした文体で語る「ジロリの女」の印象が抜きんでている。「カンゾー先生」は観ていないが、とぼけた作風のあちらよりむしろ展開に起伏のあるこちらの方が映画の原作に合っているような気がするぐらい。ほか、タイトリングがラストシーンの叙情と同じほど冴えた「私は海を抱きしめていたい」も以前に読んだ折と変わらないほど鮮烈だった。戦後まもなくの日本社会のいい加減さをつき放しながらも、その言外の境界で真剣に愛でるべきものを見出そうとする安吾作品は、なるほど今の空気にそぐわしいと分かった。昔の自分には、安吾は早すぎたのだとも。