堕落論・日本文化私観

堕落論・日本文化私観 他二十二篇 (岩波文庫)

堕落論・日本文化私観 他二十二篇 (岩波文庫)

坂口安吾のエッセイをセレクトして文庫本にまとめたもの。お値打ち感はあるものの、戦前から戦後にかけてのものが一緒に入っている編集ぶりには読みにくさも少々あった。時折、露悪にすら踏み込む(たとえば複数のエッセイで原子爆弾にまつわる軽口が入り込む)作風は、ステージ芸能に近いものを感じるが、これは当時に読んだ読者とはどうしたって一体性は持てないだろうなと思った。よって、自分が面白いと思ったのはどちらかといえば時代を評したものよりも、安吾個人の生活観というか文壇人としてのスタンスが感じられるものだった。特に、心中した知人の太宰治を悼む、というかその才能を悼んだ「不良少年とキリスト」の末語が鮮やかに美しい。