外天楼

外天楼 (KCデラックス)

外天楼 (KCデラックス)

石黒正数の作品は初読だが、本書の感想に限っていえばとり・みきのパロディカルな作風を更に洗練させるとともに叙情面のドライ度数をやや上げたぐらいの持ち味か。
さて推理専門雑誌に掲載されたというこの連作短編シリーズは、ミステリ、ユーモア、SF、家族もの、刑事ドラマ、特撮など小説や映像の様々なジャンルをまたぐバラエティぶりだが、核となるのは『外天楼(げてんろう)』と呼ばれる不可解な形態に伸びた集合住宅のとある所帯であることが読み進むうちに明らかになる。その絡み合ったドラマの行き着く先は紛れもなくひとつの極北で、第1話のギャグエピソードからなんと遠くまで雰囲気の推移に違和感を持つことなく連れてこられたものだとじんわりとした感慨を与えられる。しかしその時点における他愛もなさの裏にはすでに最終話のきざしが在ったのだとも気づかされて、登場人物配置における一つの縛り(名前のある、または視点主人公になっている女性キャラはほぼすべて…)とともに、全体を調和させる仕込みの細やかさの功奏ぶりに圧倒されるばかり。