奇跡なす者たち

酒井昭伸による解説によれば、ヴァンスは日本でいえば山田風太郎に近い存在。それが頷けるがごとく、アイデアの膨らましが存分に楽しめる中編の方が叙情頼みの短編(環境が精神を浸食していく『音』はたとえばブラッドベリならもっと余韻豊かに描けたろうし、現実の酷薄さの中にロマンチシズムのかけらを埋めようとした『ミトル』のようなプロットはジーン・ウルフが手掛ければより美しく仕上がるはず)よりもはるかに面白い。というか文体の大胆なリズムに乗って設定が軽やかに広げられていくさまはもはや面白すぎる、と言ってさえ過言でない。表題作における科学技術と魔法論理のスタンスの転倒がダイアローグにて繰り広げられる箇所などは読んでいて興奮しきり。『奇跡なす者たち』とは作中現時点においての呪術者たちの事であり、同時にかつて物理法則を用いて多大な効果を挙げていた古代人たちの事でもあるのだ。なんと簡明なスタイリストぶりか。