エンディミオンの覚醒(下)

エンディミオンの覚醒〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

エンディミオンの覚醒〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

基本スタイルが一人称だと風呂敷の畳まれ方がシンプルに理解できていいなあ。かといって事象のスケールダウンとはなっていないあたり、非常に満足度の高い読後感。「有は無、無は有」という東洋思想を色濃く反映させた未知の次元のアイデアといい、それを具体的に世界へと発展させる契機としては西洋史上の重要なイヴェントを模したり、偶像崇拝を否定してみせることで中東文化圏をも取り込んだりと、人類が新しいステージへと至る過程を紙上に結晶させたその志の高さは全盛期のル・グィンの域に到達しているし、物量戦をビジュアル性豊かにダイナミックさを臆せず伝えてくる豪腕ぶりは、テーマ接近のための繊細な手つきと不思議と調和している。類まれな資質を持つ作家だと、しみじみ感じ入る四部作の完結編だった。時に獅子奮迅の働きを愛する人のために見せながらも飽くまで平凡な能力と感性の持ち主に終始した主人公の印象とともに、自分にとって忘れられないメッセージを放ち続ける一冊になりそう。