これもまた、知られざる
英語圏作家のセレクト短編集という趣きゆえに一般的評価を満場一致で得られるというタイプではないなあ。あるいは自分がもう10年歳をとった時に読み返せばもっと妙味が分かるかも。
ヨハネの黙示録とサンタクロース伝承、アダムとイヴの馴れ初めをごった煮したかのようなキュートな終末譚『
暦博士』からは屈折と牧歌が入り混じった宗教観が感じられるし、イギリスの
格差社会を背景とした『おそろしい料理人』からは、差別の当事者双方それぞれに同時に寄り添っているような二重感覚があるしで、一筋縄ではいかない巧者であるのは確かかとも思うが。なお、イチオシは
散文詩のように淡く美しい『去りし王国の姫君』。本邦初紹介時には
山田章博のイラストが付けられたと訳者後記で読んで、想像しただけでため息が出た。