喋る馬

喋る馬(柴田元幸翻訳叢書|バーナード・マラマッド)

喋る馬(柴田元幸翻訳叢書|バーナード・マラマッド)

ユダヤ人であるということは世界をどのような視点で眺めることか。それを、こうまで端的に教えられた記憶はこれまでにない。その意味で、暴力が暴力として意味が成さないほどに差別がありふれた味として空気に混じっている『ユダヤ鳥』はもはや忘れようがない痺れを舌の上に残す。一方、同様の趣向ながらユーモアとナンセンス方向に思い切って舵を切った表題作の方には軽々とした自由な精神性をいつまでも空に見上げているような、それでいて置き去りにされたかのようなこれまた鮮やかな印象が。強度の高い客観性は、たとえそれがどれだけ自虐の色と絶望の幕を纏っていたとしても一所にうずくまる事はない。タイムリーに、マラマッドの邦訳短編集が一冊復刊したそうなので、間をおかずに読みたいと思う。