怖い絵3

怖い絵3

怖い絵3

もったいないことにシリーズ最終巻。“時代と作者・モデルのバックボーンから読み解く名画”という著者の視点はとても面白いので、別のテーマでまたぜひ書いてほしいと思う。また、全巻通じて、“よく知られた傑作”と“知る人ぞ知るややマニアックな名画”との選択バランスと構成が絶妙。このあたりは以前からよく名画にまつわるテキスト本を出していた出版社の特色もあると思う。さて、今巻で自分がもっとも気に入ったのは、アニエス・ソレルという最初の公妾と呼ばれるモデルを得て描かれたキッチュさが妙に現代と通じる『ムーランの聖母子』(ジャン・フーケ)。構成主義的な聖母のボディデッサンや原色で塗られた天使が強烈。モデルが美肌をつくるために日々水銀を塗りたくっていたという“逸話”部分もぞっとさせられる。また、じわじわくる怖さとして、名画がよく描く“無関心なモブキャラ”に注目した伝ブリューゲルの『イカロスの墜落』も趣深い。最近になって所蔵美術館がようやくブリューゲルの真作としては疑念があると認めたという、一見関連のない最後の一文もなにやら不気味。