強いられる死

強いられる死 自殺者三万人超の実相

強いられる死 自殺者三万人超の実相

角川書店発信のWebマガジン上で発表された原稿を主とした現代日本の自殺を追ったドキュメント。各章はコンパクトに核がまとめられていて読みやすい。なかでも取材の詳細さに圧倒されるのは、富士の樹海で餓死を図ったものの両足の凍傷を負った段階で救助された男性のくだりと、新銀行東京で職場ぐるみのいじめ(ヨーロッパではモビングと呼ばれる)を受けて心身不調に陥り何度も自殺念慮の騒ぎを起こす羽目になった青年の体験談。前者は多重債務が直接のきっかけだが、その背後には就職した大手メーカー関係会社の不可思議な伝統、先輩接待があるという。料亭での社内接待を高卒の新人に実質押し付けるのだから本当に消費活動がシステムとして過剰に推奨されている実態の一部がほのみえる。後者が受けた仕打ちは原始的ないじめだが、それだけに本人が体感した神経負荷がよく理解されて、何度も(あえて母親や他人が目の届く範囲で行われるのがかえって痛々しい)自殺を試みるその様子は、まさしく「自殺」、「自」分の中の他者・社会に「殺」される過程そのもので鬼気迫るものがあった。とはいえ、巻末には現在進行形で起こり構築されている施政と民間が協力しての潜在的・直前自殺者をフォローする試みも紹介されており、かすかな希望も添付されている。著者の最近の作品の中では最も良かったと思う。