廃市('84/監督:大林宣彦)

日本映画専門チャンネルで視聴。もう四半世紀前に撮られた映画という事になるが、人々の髪型や立ち居振る舞いのノンビリ具合の懐かしさに、つくづく自分の感性は昭和晩期に置いてきたままだと思わされる。美的センスとは微妙にズレた次元の話。しかし主演の山下規介(ジェームス三木の息子とのこと)も小林聡美(二十代前半というところか。この頃はアイドル路線だったのか発声からして今と違う)も、根岸季衣峰岸徹も実に美しい。“邦画ファンのための邦画ファンによる邦画ファン映画”が大林監督の持つ特色だと思うが、本作はあるいはストレートにそれが出ているのでは。光線を強く当てるのではなく、陰影を持たせる美学。撮影面でも演出面でも。最初は実利があって始まった掘割事業も、いつのまにやら住む者たちの道楽として蔓延していく。人間そのものも、道楽が昂じれば後は死ぬしかない。世話役として登場する親戚の、自分も若い頃は死ぬことを二度や三度は考えたというセリフがこの映画のハイライトだと思う。アンビバレントに揺れるという身振りそのものがテーマ。柳川、行ってみたいですね。