イギリス恐怖小説傑作選

イギリス恐怖小説傑作選 (ちくま文庫)

イギリス恐怖小説傑作選 (ちくま文庫)

類似のアンソロジーの中ではおそらく若めな選者による趣きのある怪異譚集。日本ファンタジーノベル大賞出身の作家でもあるということで、訳文センスは抜群。中には『恐怖小説』とはやや外れてるのではという作品もあったものの、心理描写に重きを置いたという一点において通底しているので読んでいて違和感はなかった。個人的ベスト3は以下。1.「目隠し遊び」(ウェイクフィールド):暗闇で募っていく恐慌が秀逸。怪異に遭った時の他人の頼れなさも怖い! 2.「見た男」(エクス):客を守ろうとするホテル執事がいいキャラ。そして急激に温度を下げるラストセンテンス。霊の犠牲に遭う人間が繊細な神経を持っているって点にもっと一般的な物事にも通じる不条理を感じる。 3.「ブリケット窪地」(ノースコット):姉妹のかすかな精神の差異が胸をえぐる。かそけき声に耳を傾ける事が魂を冥い方向に寄せる無残さ。…他にも、ほんのりとした読後感の「小さな幽霊」(ウォルポール)、「人殺しのヴァイオリン」(エルクマン=シャトリアン)もとてもよかった。どちらも優しみのある小品。