かむなぎうた

かむなぎうた―日影丈吉選集〈1〉

かむなぎうた―日影丈吉選集〈1〉

日影丈吉の場合は「推理小説」ではなく「探偵小説」と呼ばれているのだな。たしかに読者の推論を誘う要件描写はないものね。かといってキャラクターをきっちり設定された名探偵がばっさばっさと解決する類のものではなく、むしろ容疑者が過去話の形で告白する体裁が多い印象。個人的な思い出の重さが風呂敷に包まれてずしりと手渡されるような、それでいてノスタルジアの甘い匂いに酔わされるような。種村季弘による選出(この第一巻は少年時代がテーマ)だけあって余韻の深いものが多いけど、個人的に特に印象が強かったのは、明治初期の姦婦討ちを淡々と描写した『時代』、大人の女性のなまめかしさと生臭さが強烈な思い出の上に焼きつく『ふかい穴』。