すべての終わりの始まり

すべての終わりの始まり (短篇小説の快楽)

すべての終わりの始まり (短篇小説の快楽)

これはまた不思議な感触の作家を選集『短編小説の快楽』第二弾に持ってきたものです。政治思想色を浮かせずになおかつ大胆に作品テーマに練りこませる傾向はル=グウィンに通じるものがあるし、筋運びや全体作風の浮遊感はケリー・リンクに影響を与えたのかなと予測させるところがある。収録作19編を通して読んで分かったのは、一家の主婦として台所や居間といった“定点”から世界を眺めることで自然と感じとれてくる、変わりゆく事物への愛惜と執着こそがこの人の作品世界の起点となっているということ。オビに刷られた宣伝文句でもあり『ユーコン』内の一節でもある「私がいつまでもともに幸せに暮らせる生き物はどこにいるのか?」という淡々と発される切なる願い。こういうものを直視できる強さを持っているのは作家という人種にもあまりいないのではないかと思う。子供は育っていくし、男は去っていくし、動物やエイリアンは期待を裏切ってしまう。それでも女は誰かと寄り添うことを夢想する。さて今回の個人的ベストは老姉妹meets謎の生物な『ジョーンズ夫人』。無惨さが少々、コミカルさたっぷり。想像の余地があるオチがすごくいい。次点はカルト宗教団体の例外ペアに男女一般の難コミュニケーションぶりを託したかのようなつくりの『悪を見るなかれ、喜ぶなかれ』。クライマックス部の唐突さとエピローグ部の切なさがたまらない。