ハートストーン('16 アイスランド・デンマーク/監督:グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン)

アイスランドのさびれた漁村でぶらぶらと思春期をおくる二人の少年が主役。その片方の繊細な少年(金髪で長身、母親に溺愛される端正な面立ちだが友人には醜いと揶揄されるあたり、田舎のコミュニティらしい閉鎖性が描写されている)は親友に恋愛感情を抱いているが、相手は気付いていない。しかし彼の押し隠した気持ちは序々に肌理の荒い集団心理の中で晒されていき、暴力的な父親からの抑圧にも耐えかねた末に事件は起こる。
寒々しさの中にシンプルな叙情性のある風景の撮り方も見事だが、なにより離合がモザイクのように組みあわさった10代の人間関係への理解の深さが印象に残る。そして一さじの希望を残したラストシーン。若さはあらゆる傷に無防備だけど、そこから回復する可能性にもまた満ちている。

セブン・シスターズ('16 イギリス、アメリカ、フランス、ベルギー/監督:トミー・ウィルコラ)

多胎妊娠が深刻な社会問題となった近未来、厳密な"一人っ子政策"のさなかに生まれた七人姉妹。祖父によりそれぞれ曜日の名前を付けられた彼女らは、周囲の目をかいくぐりつつ七人で一人の人格を演じながら長じて、やり手のバンカーとして生計を立てていた。しかし一番の優等生的な性格だったマンデーがある日、帰宅しないまま彼女らに次の朝がやってきた…
ミステリとサスペンス、アクションに家族物語。複数の要素が盛り込まれているが、七人姉妹の住まいの生活感によってそれらが調和し統合されている。一人はみんなのために、みんなは一人のために。とても一人で七人分のパーソナリティを演じ分けているとは思えないノオミ・ラパスあってこその作品だった。誰かをうしなう時の哀切な演技がたまらなく心に響いてくる。…ただし、終盤になってご都合主義がやや目立ってくるのが残念。管理局の平構成員であるキャラクターがやたらめったら強いし、黒幕キャラへの演出はステレオタイプをもっと慎重に避けてほしかったと思う。前半から中盤は傑作。終盤は凡作になってしまったきらいがある。

ブレードランナー2049 ('17 アメリカ/監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ)

前情報を持たずに観に行ったら、無印「ブレードランナー」から直線的に繋がったプロットだったので虚を突かれた。自分としては、この監督の演出傾向だったら別のキャラクター構成で前作とは違う語り口で観たかったなと思うのだが。メーカー会社内での震える生まれたての羊のような女性レプリカントが商品として吟味されるシーンがいちばん印象に残った。あと冒頭で、思わせぶりに煮込まれつづける鍋の中身が気になったなあ。主人公が肩透かしをうける中盤の展開には、なにかアクチュアルな示唆があったように思う。恋人ホログラムをシラフで受け入れる主人公といい、自らの精神の空虚さが前提となった現代性を感じる映画であった。

ソウル・ステーション/パンデミック('16 韓国/監督:ヨン・サンホ)

ゾンビ・トレインパニック映画「新感染」の前日譚として製作されたアニメ映画。バンド・デシネのような透明感のある塗りが美しい。韓国映画はあまりたくさん観てきたとはいえない自分だが、この映画が現時点でベスト韓国映画。徴兵制、儒教社会、女性差別、格差拡大とさまざまなストレッサーが重なり、ゾンビパニックとしてパンデミックする。そこに出口はない。しかし、歪な救いにも似たカタルシスはあるのだ。終盤の怒涛の展開には度肝を抜かれたし、思いもよらぬ着地点には構造的な美さえ感じた。包囲網の中に取り残された以上、こうなるしかないんだよな。奇跡はここにない。けど、映画はまだ世界にある! 来年もきっとド凄い韓国映画が観られるに違いない。

2017年アニメOP5選

今年は視た作品総数がやや少なめだったので。
アトム ザ・ビギニング

解読不能

解読不能

海外出身アニメーターたちによる競演。ドライさとウェットさが交差する、本編とマッチしながら矛をつき合わせているような緊張感を持つ、今年のアニメシーンを代表する一品。
昭和元禄落語心中 助六再び編」
今際の死神

今際の死神

老人の主観視点で演出されたオープニングアニメは初めてなんでは。八雲の目に映るみよ吉がレコード盤として廻るカットの美しさよ
ID-0
ポップな色使いと曲導入部が飽かずにワクワクさせてくれる。
有頂天家族2」
通常、第二シーズンのOPが第一シーズンを越える事は稀だが本作はそれに該当。空騒ぎの中に祭りの後が交錯する一抹の寂寥感が心に残る。
ACCA13区監察課
『ACCA13区監察課』OP主題歌「Shadow and Truth」

『ACCA13区監察課』OP主題歌「Shadow and Truth」

スタイルすら縦横無尽に横断する奔放さでは他の追随を許さなかった。カットタイミングの切り替わりがまた小気味いい。

(次点)
血界戦線 & BEYOND

通りに何をするでもなく座る女性、ペットを運ぶリュックを担ぐ男性、カーニバルを眺める異界の存在、架け橋を疾走する主人公。街は今日も生きている。

2017年アニメED5選

リトルウィッチアカデミア

寄宿生活のピースオブライフが淡彩で描かれる愛らしさ。
昭和元禄落語心中 助六再び編」
ひこばゆる

ひこばゆる

OPで八雲がなくした羽織は人知れぬ場所へ到着する。そこに雨は降り新たな緑がめばえ…… 竹林のさんざめきを見よ。ここに実写を超えたアニメーションがある。
進撃の巨人Season 2」
宗教画のおごそかさと不気味さ。限定された動きがかえって意味を持つ逆転の発想が十全にあるアニメーション。
有頂天家族2」
矢三郎にとって弁天が『彼方のひと』であったように、矢三郎の身軽な生き方は現在の弁天にとって叶わぬものであった。第二シーズンを経てしみじみ思う。
ザ・リフレクション
SunSunSunrise/ゆるとぴあ(期間生産限定盤)(DVD付)

SunSunSunrise/ゆるとぴあ(期間生産限定盤)(DVD付)

シルエットダンス。実写とアニメーションの区別がもはや付かないし付ける必要もない時代が到来した。

(次点)
賭ケグルイ

LAYon-theLINE  ※CD

LAYon-theLINE ※CD

淫らさよりもさらに主体的ないかがわしさ。山本沙代が担当したOPアニメもそうだったが、押し進められたエロティックさにはジェンダーを越える力がある。

詩のオデュッセイア

詩のオデュッセイア―ギルガメシュからディランまで、時に磨かれた古今東西の詩句・四千年の旅

詩のオデュッセイア―ギルガメシュからディランまで、時に磨かれた古今東西の詩句・四千年の旅

新聞記者だった著者が、偏愛する詩でもって辿る世界史の違う一面。言葉を連ね、磨き、繋げる営みはときに大きく世界を動かす。みえない波は心をそっと撫でていくが、痕跡はかならずしも消えるわけではない。言葉というかたちの美しさを静かに味わえる一冊。おすすめです。