『氷』三部作

ブロの道: 氷三部作1 (氷三部作 1)

ブロの道: 氷三部作1 (氷三部作 1)

氷: 氷三部作2 (氷三部作 2)

氷: 氷三部作2 (氷三部作 2)

23000: 氷三部作3 (氷三部作 3)

23000: 氷三部作3 (氷三部作 3)

ロシア革命の時代、ツングースカ大爆発の調査に訪れたある青年に強烈な啓示が訪れる。自分たちは宇宙から到来した純粋なエネルギー体の"光"の仮の姿であり、無意味な暴力の惨劇があふれる世界を原初の『無』へと戻さねばならないと。一世紀に及ぶ、二万三千人の仲間たちを集めるカルト集団の戦いがそこから始まった。
20世紀の混乱のあとに訪れる21世紀の無気力でよりありふれた荒廃。どちらも客観的にみれば(地獄だな)と思わざるを得ず、淡々としたソローキンの描写には、単なる新興宗教-『兄弟団』はグローバルに強大な影響力を持つものの、オカルト能力についてはぎりぎり主観の範囲にとどまっているとも解釈できる-糾弾を超えた、人々の絶望の集積への鋭い考察が伺える。ヒトラーをより多く集団自殺に巻き込もうとした首謀者と捉えるブロのモノローグの箇所がその一例。人類の悲しみはやがて世界の存続の否定へと向かうのか? 結末までボリューム豊かなシーンの連続と鮮やかなカットの切り替えしで読んでいて飽きることがなかった。

残酷な神が支配する(全10巻)

読もう読もうと思っていた名作を、電子書籍の冒頭巻無料キャンペーンがきっかけでついに機会を得た。児童性虐待がテーマだが、加害者の死亡後の展開の方が長く、物語は序々に愛と呪いの近似性と境界性の薄さをも包括していく。虐待サバイバーの回復したとみえてすぐにゆり戻しがくる心理を外から見守る重圧感をたっぷりと見せつつ、しかし全体の色を決めているのは、単なる社会問題提示にとどまらずに恋愛の重層性でもって人間の尊厳を綾なす作者の美意識。その姿勢に圧倒され通しで読み終えた。

五日物語 3つの王国と3人の女('15 イタリア、フランス/監督:マッテオ・ガローネ)

おとぎ話の可憐さと酷薄さがギトギトにならない手前加減で詰まっていてとても好みな作品。海の怪物のあえての着ぐるみ感もけっしてちゃちではなく、かりそめの美女がふたたび皺に覆われた肌にもどっていくCG処理もエフェクトをやりすぎていない。
あらゆる人生において勝者と敗者の瞬間がそれぞれに訪れ、善意や愛情は報われるかどうかとは関係なく確かにそこに存在する。塔の上の綱渡りを満面の笑顔で眺める王女の晴れやかさと、ひっそりと泣きさる魔女の対比に単なる悲しさ以上のものを感じて、実際この身に沁みてつらいほどだった。