最近読んだ漫画いろいろ

難波鉦異本 (上・中・下)

難波鉦異本 中 (HARTA COMIX)

難波鉦異本 中 (HARTA COMIX)

 

 読みは“なにわどらいほん”。元ネタとなった江戸時代の読本『難波鉦』はドラ息子の視点から遊女の世界を覗いた内容だそうで、この“異本”は逆に遊女から見た世間という切り口で描かれている。短編で綴られたその機微は、歴史・社会・親子・恋情・階層・芸能・風俗と津々浦々。ここまで元禄時代の空気が身近に感じられた読み心地は覚えがない。自由を制限された遊女の身を自覚しながらも、自律を常に念頭に置きつつ浮世を味わい尽くそうとする主人公の『和泉(いずみ)』と、大坂新町遊郭の文化の独特さと、囲いの外と変わらぬ人情の機微。絵柄の湿っているようでさらりと常に風が吹き流す絶妙さも全てがピッタリと調和した傑作。自分が特に推すエピソードは、落城から始まる大坂に息づく負け越しの気風をフィーチャーした「敗者の町」と、やり手婆の過去の無情幕から現在の人情劇に落着する「篭のムシ」。人間は墜ちてからが本番。

 

いちげき(全7巻)

いちげき (7) (SPコミックス)

いちげき (7) (SPコミックス)

 

映画化進行中とのアナウンスが出た、幕末が舞台の本格時代劇。殺人技としての剣劇がこれでもかと頻出し人体損壊も容赦がないが、セリフの掛け合いが常にリアルな間合いのコメディ要素となっているので余分なストレスがなく、高い娯楽性と強い命題とが最後まで保たれる。身共も何を最後まで守るかだけは決められる生き方でいたいね。

 

コーポ・ア・コーポ(既刊3巻)

コーポ・ア・コーポ 1 (MeDu COMICS)

コーポ・ア・コーポ 1 (MeDu COMICS)

 

 昭和普請の風呂なし安アパートに暮らす老若男女とその周辺の人々ののんべんだらり時折深淵。なんとなく不登校になり母や祖母に嘘をつく形になる少女が自立を試みる直前のいくつぶかの涙など、市井で出会うほんの心変わりの瞬間が鮮やかかつ静かに切り取られるコマ運びに天性を感じる。おそらく平成生まれのまだ若い作者(ツイッター観察)だと思われるが、月刊ガロで一時代を形成した安部慎一つげ義春・忠男兄弟の湿り気のあるコントラスト演出からの影響が感じられるなど、積み重ねられた漫画文化の咀嚼の高いリミックス手法がストーリーから浮いていないあたり、今の俊英漫画家ほんと怖い。才能天井知らずやん。とにかく宮地さんの少年時代の回だけは読んでほしいですね。第三巻収録です。そして性も死も裏切りも出るが、弱者の足をひっぱる人の淀みだけは出てこない。そこに覚悟のすわった作品への愛がある。