コーヒーもう一杯

フォーヴィスムのように平面に立体性をあえて解体して置く画風であり、カケアミの精緻な使い途が近代ヨーロッパの銅版画のようでもある。電子書籍の場合はページ綴じ目の影響を受けずに一枚絵のように原稿が再現されているので、私の感覚ではむしろ紙媒体より好もしいかもしれない。
内容は単純化されたキャラクター絵から予想される人情ほのぼのとは一味違い、ほろ苦さがまろやかさとバランスを競り合う。過去はそのままの形で現在へと戻らないし、幻想は現実と取って変わることはないけれど、淹れ方によって微妙な変化を起こす珈琲の存在が相反する両者をほんのひとたび結びつける。そこに満足を見出すのは個々人の感性に拠ることを想起させる作品。