ニュクスの角灯 (全6巻)
明治時代、伯父の家に預けられた美世は不思議な風体の道具屋に出会う。これは黒髪のアリスと金髪のアリスが、三月ウサギの手引きで鏡合わせに知りあう物語。ベル・エポックの風はきっと極東のこの国に届いていたし、逆に吹き返した美の手技は大いに西洋の通人たちを唸らせた。その後に爆弾の応酬があろうとも、再び交流ははじまる。懐中時計は何度も遡る。…内気だった美世がひとまわり歳上の百年を慕う気持ちの引いては寄せる様子と、高級娼婦で鳴らしたジュディットが運命に抗おうとして諦めかける一進一退とがうねるように描かれてやがて交差する。大河少女漫画の演出がザックリとしたペンタッチと合わさって独自の空気感に。
竜女戦記 (既刊2巻)
江戸時代の習俗モデルとファンタジー世界設定が混淆しており、ときおり戸惑うが解説はそれなりに分かりやすく機能。なによりキャラクターが生き生きとしているので、陰惨な描写や荒唐な展開に引っ掛かりなく作品内に没頭してしまう。武士の妻おたか、彼女の潜在するヒロイックさにどうしたってワクワクするではないか。第2巻から登場する(明らかにティリオン・ラニスターをオマージュした)異形の切れ者と高慢な姫君のペアも一つの古典様式でいてこれまでにない関係性を漂わす。さて三頭の竜が眠る国の玉座は誰の手に。
高丘親王航海記 (既刊3巻)
2巻まで読了。人物のうっすらとした描線と輪郭の淡くかたどられた背景によって、外界と内界とはたやすく往来する。皇子の位をかつて剥奪された主人公にとっては、世界も自我も、信仰というお題目すらも段々にあやふやになっていく。供の者たちと巡る奇妙極まる島々の、悪夢のようであり楽園のようでもある様子はもはやサイケデリック。近藤ようこはどこまで自由になっていくのか。