青い脂

青い脂

青い脂

ロシア著名作家たちの文体模写により綴られた意味不明な複数の劇中作にまずもって圧倒される。圧倒されるというか笑える。壮大なSF絵巻として完成されそうな通常の時間軸をも跳び越える三部構成の長編だが、その繋がりは妙に稀薄であり、なぜこう展開する?と混乱しつつも不満はなぜか残らないという。手法の豪腕ぶりは今年出版された小説の中で間違いなくトップクラスだと思う。ナンセンスと皮相が捩りあわされる中で、しかし崇高さを漂わせ、なおかつ本質的な危険を匂わす青い光が読者の前に、必ずや眼閃する。彼の国の芸術への真摯な姿勢の伝統性と、それゆえに屈折率が高すぎてもはや中心を見極めるのが難解としかいいようのないこの捉えどころのなさ。それでも、第一部がクライマックスを迎えて場面が変わろうとするころには、途中で読むのをやめる気は一切無くなっていた。