- 作者: サミュエル・R・ディレイニー,浅倉久志,伊藤典夫,小野田和子,酒井昭伸,深町眞理子
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2014/12/29
- メディア: 単行本
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ならば極彩色ファンタジー冒険小説の『プリズマティカ』でも良いのでは、となるがこちらはディレイニーの著作の中ではやや牧歌性に傾きすぎる。それでもイメージの提示や物語構成の緻密な華麗さには魅了されるばかりだが。
トリとして収録された中篇『エンパイア・スター』は無知な島暮らしの青年が船乗りとなって出会いと別れを繰り返すというビルドゥングスロマンの体裁を持っているが、何度か繰り返される(知性は観性と直接の相関性はない)という台詞同様に、文面でなぞられる以上の広がりの世界へとやがては到達していく。そして淡白な筆致からひどく遠大な英雄伝説があぶりだされていくが、悲しみと喜びとがあまりに複雑に織り込まれているために、全体を知るには読者はエピソードを眺める視点をためつすがめつしながらいくつも持つ必要がある。すべては、すでに繰り返されていること。同時に、あなたはあなたでしかなく、あなた以外の何者もあなたにはなれない。運ばれるメッセージはいまだおぼろで、それゆえに無限にその選択肢は先へ広がっている。