イリアム

イリアム (海外SFノヴェルズ)

イリアム (海外SFノヴェルズ)

古代の地球と思われる戦場、木星より火星の異変を調査にきた半機械生物たち、遠未来の人類の生き残りが暮らす超管理社会。三つの視点が絡み合って同時進行するストーリーライン。それらの因果関係が登場人物たちのセリフから少しずつ明かされていくのが頁を繰るのももどかしいほど面白い。二部構成の前編という位置づけなので、すべての謎は最後まで解かれていないが、戦う事を本能に運命づけられた人間という存在へのまなざしの力強さは、シモンズならではという印象。トロイア戦争における女たちの強さが、露悪的でないだけにコワいねー。ただ少し残念なのは、“しかしすでにその時○○は病気にかかっていたのである”というような、作者が底を割った語り口が終盤で入ってきて臨場感を損ねている点。これは大部ゆえにシモンズが息切れしてしまったのか、あるいは翻訳の問題なのかは分からないけど。あとそれとは無関係だけど、自分が一番気に入ったキャラクターがあっさり死んでしまうのがもったいなくて悔しかったり。