殻都市の夢

殻都市の夢 (F×comics)

殻都市の夢 (F×comics)

気になる未読本を手に取ったらそれがことごとくマンガ・エロティクスF掲載であるという不思議な季節。そして漫画でエロスといえばこの人をやはり外すわけには行かないでしょう。人間の、生物としての性と社会儀礼上の性との往還を常にブレなく描き続ける鬼頭莫宏。双方の狭間で吹くその風は、いつも寒々として乾き、同時に多様性という名の豊穣の匂いを漂わせている。本作の舞台は殻のように上へ上へと構造物が堆積していく退廃を隠した都市。そこで起こった人と人、人と人に似たものとの間で起こった事件を扱う監査官ふたりが主人公の連作シリーズ。当代きっての短編漫画の名手である(と私が勝手に認承している)作者の無駄なくスマートな手管が味わえる閉鎖的な設定が秀逸。最初のエピソードで、妻はなぜ夫の方を狙って撃たなかったか? 最後の主人公たちのやり取りの背後にその謎掛けが残響し続ける。