死んだ金魚をトイレに流すな

死んだ金魚をトイレに流すな―「いのちの体験」の共有 (集英社新書)

死んだ金魚をトイレに流すな―「いのちの体験」の共有 (集英社新書)

家で飼っていたが死んでしまった金魚をトイレに流しても、よしんば金魚が苦痛を感じることは万に一つの可能性もないと推測される。だから合理性の面では問題はない。…しかしそこで洩れこぼれるものが一つだけある。横でその行為を見ている身近な他者と、生命に対する尊敬を共有する機会がそれである…という論調のスクールカウンセラーを長く勤めてきた著者による新書。単なる子育て論にとどまらず、社会全体の倫理観の希薄化を危惧している雰囲気が伝わってくるところに視野の広さを感じます。また専門知識の説明も分かりやすく、最も重要なポイントである二つの自尊心、「基本的自尊感情」と「社会的自尊感情」それぞれの育ち方については一読の価値あり。テストで高い点をとって褒められて喜ぶだけでは、人は不安をわすれることはできない。何も達成できないとしても自分に生きる価値があると“なんとなく”思える土台ができていればこそで、そのためには親や身近な大人から、なんでもない生命に対して敬意を払う姿勢を学ぶことが大事ということなのだそうです。基本的自尊感情が健全な人間は、自分も他者も傷つけることはできないというわけ。