薪の結婚

薪の結婚 (創元推理文庫)

薪の結婚 (創元推理文庫)

これは…なんというほのぼのラスト。キャロル小説の常として喪失のかすかな痛みはもちろんあるものの、救いや希望がここまで明確に残っている作品は他に見当たらないかも。なお、舞台を同じくする「蜂の巣にキス」とは違ってこちらには超自然要素あり。ただそれも、他作品とくらべて表出の仕組みがわりと単純なので相当に読みやすく理解しやすかった。それにしてもヒロインのスイーツ(笑)ぶりはかなりなもの。嫌な奴(キャロル主人公にはよくあること。ただ今回はその理由付けがよりはっきりしている)があまりにもありふれている世の中の理不尽がメインモチーフだという事に勘付いていても、GAPの店員に唐突にわけもなく怒鳴るシーンには実に驚いた。パワフル専門職系スイーツおそるべし。さておき、自分の老齢期が徐々にみえてきている年代にはグッとくること請け合いの、人生の知恵がまさしく“細部に神が宿る”独創的かつリアルな描写と洗練された文体で綴られる。キャロル初心者にもオススメな佳作。