虎よ、虎よ!

ベスターの性悪説を淡々と採用した小説を読むかすかな気後れも、最初の数行であっという間にかかったアドレナリンドライヴ・エンジンによって吹っ飛んだ。猥雑なガジェットと絢爛なプロップの波状攻撃。混沌とした語り口がやがて静謐な境地へと到る。遠未来の粗野な男による復讐娯楽活劇は、凡人として生まれて狂人に押し流されたゆえに超人へと変わりやがて聖人にたどりつく魂の遍歴物語へと落着する。この50年代に書かれた長編が、傑作ではなく名作と呼ばれている訳は第二部の半ばまで読み通した者にしか分からない。世界の矛盾を残酷に美しく体現した触媒としての役目を果たす彼女が真の姿を現すまで。